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ほどなくして完成した料理をテーブルへ運んでいると、手伝ってくれた三井さん。その顔には『心配』の文字がありありと浮かんでいて。
(…ちょっと可愛い、な)
彼には申し訳ないが、手紙の内容はまだ言えない。きっと――あと数分もしたら分かるだろう。
「いただきます」
手を合わせてから口に運ばれる料理。固唾を飲んで見守った。
「あれ…この味付け…?」
伏せられた瞼の奥で何を思い出しているのか、取りあえず手紙の内容が功を奏したようでほっとしながら箸を取る。
「…佐々木さんに教えてもらったんです」
「え?」
いただきます、と自分も手を合わせて。不思議そうに見つめる彼へ微笑んだ。
「さっきの手紙に書いてありました。三井さんのご実家で教わった、って」
少しの嫉妬を覚えたのも事実だけれど、それはそれ。驚いてもらえたようで、手紙を開いて良かったと思う。
『お久しぶり、佐々木です。
芹生くんにはきちんと挨拶出来なかったから、ここで話しておきます。
こっちに居る間は色々と迷惑を掛けて申し訳なかったと思ってる。私もまだまだ子供だったなーって。何回も言うようだけど、決して芹生くんが嫌いなわけじゃないから。そこのところは誤解しないでね。
お世話になったお礼に、三井家で教わった味付けのレシピ、載せておきます。
お店の関係で、今度は大阪に転勤することになりました。パワーの強いおばちゃん達に馴染めるか、今から不安だけど…(笑)
またそっちに行く機会があって、落ち着いたら。今後はご飯でも行きましょう。
なんでメールにしなかったのか聞かれても、彼には内緒よ?貴方宛の手紙が家に届いて色々悩んでる時の顔、見たかったわ~。私を振ったんだからこれくらいの意趣返しはさせて欲しいものね。
では、お元気で。佐々木瑠依』
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