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226.
洗い物もする、と譲らない楓くんに根負けした俺は食後のコーヒーを煎れる係に。食器と水が奏でる音を聞きながら、やっぱりココアにしようと考え直す。
彼の横顔を見やってふと思った。なんとなく、その甘さに浸りたい気分だから。
「…わ、良い香り」
蒸気と共に湯を注ぐと、立ち上った匂いがふわりと漂う。瞬く彼の目の前で、仕上げにマシュマロを落として微笑む。
「洗い物、終わりそう?」
「はい、もうこれで最後です」
水切り台に立てかけた皿を確認して、ソファーへと移動する。後から着いてきた楓くんは、当然のように対面へ座って。
「…こっち」
「え、」
ぽんぽんと隣を叩けば、何とも言えない表情。有無を言わせずカップを移動させると観念したようにそろりと近寄ってきた。
「あ、の…っ」
「取って食ったりしないよ」
「……はい」
座る彼の腰に腕を回して宥める。しばらくすると緊張も解れたのか、両手でカップを包む姿が。小動物のような仕草に頭をひと撫でしてからテレビに視線を移した。
「…そういえば」
「うん?」
「今日は、香水…つけてないんですよね?」
コトリと机に置かれたカップ。温まった彼の手を包んで頷けば満足そうな吐息が漏れる。
「どうして?」
「いえ……」
言葉を濁す、その先がどうにも気になって。名前を呼びながら見つめた。
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