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「…楓くん」 気になっているであろうことは、分かる。でも言うわけにはいかないと首を振りかけて――無理だった。 細まる双眸に捉えられ続けるうちに全てを暴露してしまいそうな錯覚に見舞われ、思わず唇を噛む。目を逸らすまいと抵抗してみるが。 「……~っ、」 見えないことでより敏感になった触覚が、じんと痺れる指先の温かさを伝えてくる。 ただ握られていただけのはずなのに、それはいつの間にか手のひらをくすぐり、甲を撫でる動きに変わっていて。極めつけに絡む指が優しく、陥落するより他なかった。 「わ、笑わないでくださいね…」 途端、ふっと瞳の圧が減り、開放感に思わず俯く。頭上の彼を窺う勇気はなくて、この状態で告げてしまえと口を開いた。 「香水の匂いより…つけてない、三井さんの匂いが、好きだなぁ…と」 尻すぼみになった後半が聞こえていなくても構わない。むしろ好都合だ。言ってしまったといたたまれない気分になる前、顎に添えられた指。そのまま緩く持ち上げられて。 「…ねえ、それ。狙ってる?」 「狙う?何をです、か……っ!」 首を傾げた瞬間、豹変する目の色。押し付けられた唇に驚いて、反射的に身を引こうとするも固定された後頭部の手に阻まれる。 「…ん、っ…ふ、ぁ、…」 舌先で舐められ、震える唇を開く隙間からぬるりと舌が侵入して来る。好き勝手な蹂躙に見えて的確な場所を掠める動きに、嫌でも繋いだ手を意識してしまう。ぎゅ、と強ばるそれを感じたのか、軽いリップ音を最後に離れる唇。 「…甘い、ね」 息ひとつ乱していない目の前の彼がとても大人に見えて。 と同時に場数の違いを感じてもやもやした気持ちが湧き上がる。 ついさっきまでココアを飲んでいたんだから当たり前だろう、という文句はしまって睨むだけに留めた。

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