229 / 330
229.
俯いた楓くんの表情は見えないが、髪から覗く耳は朱に染まっていて。ふわりと抱きしめ密かに目的を遂行する。
「…えっ、あの……!」
「うん。良く似合ってる」
華奢な首元で光る金色。何度か口を開閉させた後、はっと気づいたような素振りを見せる彼。
「こ、これ……俺が見てた…」
返事の代わりに頬を撫でればみるみるうちに解 ける目元。羞恥と感謝が綯い交ぜになった瞳を向けられて、自分は心底彼に惚れ込んでいると思い知った。
「それは、誕生日プレゼント」
「でも両方なんて…」
「イベント事と纏めて祝われるっていうのが嫌だったから、俺は。それに、ホワイトデーと一緒にしたくなかった」
新年の浮かれた雰囲気に流されて、誕生日を重視することも無かった幼い頃。嬉しいような、けれどなんとなく物寂しい気持ちを味わったと覚えている。
「…ありがとうございます」
「どういたしまして」
はにかむ彼に微笑んで、ふと脳裏をよぎるのは。
嬉しそうに胸元を眺める姿に問いかけた。
「…ねえ。プレゼントに指輪とかネックレスを贈る意味、知ってる?」
「意味…ですか、?」
「調べれば多分すぐ出てくるよ」
言われてスマホを取り出した彼が赤面するのは数分後。想像通りの反応に、緩む口角を感じた。
「み、三井さん…」
「好きだよ」
言葉尻を掬い取って告げれば更に赤みを増す頬。虐めすぎたか、と反省しながら苦笑い。
『愛情』や『誓約』を意味する指輪やネックレス。輪になっているその形状から、相手への束縛や独り占めしたい気持ちを表すという。
「………ずるい」
「ごめんね?」
ふしゅー、と音がしそうなほどしぼんだ彼に緩く睨まれて。取りあえず謝ってみた。
「…いつか。俺も、プレゼントします」
予想の上を行く返事。いつだって彼はそうだ。
たまらず腕に閉じ込める。おずおずと背に回る腕も、何もかも。愛おしくて仕方がない。
「ありがとう。楽しみにしてる」
離れて笑う楓くんが眩しくて、目を細めた。
シンプルなデザインのネックレス。
照明を浴びるブランドショップのショーケースに鎮座している時よりも、ずっと輝いて見えた。
ともだちにシェアしよう!