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231.
お馴染みの音楽に迎え入れてもらい、ドリンクコーナーへ向かう。目の前にずらりと並ぶ水。水。水。
(無駄に種類あるよな…)
国産で、なおかつ飲み終えた容器を小さくできるものが妥当だと結論を出して、扉を開ける。2本取り出した瞬間。
「あー!!」
「ひ、っ……!?」
いきなりの大声に、危うくペットボトルを取り落とすところだった。ここが歌舞伎町だということも忘れて反射的にそちらを見やる。
俺を指さしていたのは、20代後半くらいの巻き髪が綺麗な女性。怖そうな人が現れずほっと安心するも、見覚えはない。そして、その隣に居るのは彼女より少し身長の高い男性。パーマを当てたカシスベリー色の髪は短く、パッチリとしたタレ目の二重は大きい。
場所が場所で、なおかつ働いていた経験上からもホストとお客さんだと推測するのは容易だった。
「この子見たことある、えーっと…あの、」
「エリちゃん、いきなりそれはちょっと失礼じゃない…?」
眉を下げる男性がたしなめるも、酔っているのか首を振った彼女は再び声を上げる。
「思い出した、ルイの店!」
「え……」
もはや何が何だか分からない。目を白黒させる俺の前で、すっと表情を変えた彼。
「…グランジュエル?」
「そうそう、なんか特別扱いしてるっぽかったよ~お世話役に後輩付けてさぁ」
俺が三井さんの店に行った回数はそう多くない。お世話役、となればあの時だろうか。
ミカさんと、翔さん。懐かしくほろ苦い名前を思い出して、治ったはずの傷がつきりと痛んだ。
「他の店に行ってるって堂々と宣言したお仕置きは後で、ね?まぁそれは置いといて…」
にっこりと笑いながらこちらを向く彼。丁寧に差し出されたのは、名刺。予想通りの職業だと答え合わせをしつつ、抱えたペットボトルに四苦八苦しながら受け取る。
「それ、ルイさんに渡しておいてもらえるかな?よろしく伝えてね。1枚は君にあげるよ」
「俺に…ですか?」
「…うん。きっと、必要になるから」
人懐っこい笑みを浮かべたまま立ち去る背中を、ぽかんと見送った。
「また行くねって伝言よろしくー!」
飛んできた彼女の声に返答できない程度には訳が分からず。しばらく頭に疑問符を浮かべて、はっと本来の目的を思い出す。
慌ててレジに向かう間も妙な胸騒ぎが消えることはなかった。
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