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「お久し振りです」 頭を下げる彼から以前のような傍若無人さは想像もつかない。4年という月日が人柄を変えたのか。 「…ハルは、どこまで知ってる?」 それでも過去を傷つけたことには変わりない。長居は無用だと単刀直入に尋ねた。 「かいつまんで、ですけど。全部…話しました」 「全部…?」 予想以上の事態に思わず組んでいた腕を解く。狡猾な彼のことだから、自分に都合の良いように編集するだろうと決めつけていた。それも、ハルの記憶が欠けているとなれば尚更。 「ここまで来るのに、すごく遠回りしました。でも、これからきちんと償いたい。例え、倍以上の時間が掛かっても……例え―――死ぬまで、でも」 静かに俺を見据える瞳は揺らぐことが無く。 「…その言葉、覚えておくよ」 最後にもう一度視線を合わせて立ち上がった。頷く彼を見届けてロビーを後にする。 まだお昼を少し回ったところ。張り詰めていた緊張と肩の力が抜けたせいか、何だか無性に声が聞きたくなって。 楓くんへ。久しぶりに、電話を掛けた。 「もしも――…」 『あれぇやっぱり兄貴だー』 「……お前」 ところが飛んできたのは予想外の声。聞き覚えのありすぎるそれに、思わず唸ってしまう。 『え、何で怒ってるの?』 本気で分からないという風情の声音にため息をついて、低く名前を呼ぶ。電話越しでも幼い日々の恐怖を思い出したのか、のんびりした口調ながらも事情を説明してくれた。 『今ねー楓くんと遊びに来てるんだけど。トイレ行ってるよー』 「勝手に出たのか」 『三井さんって兄貴のことなのかなあって。気になっちゃったから』 「…名刺」 どういうつもりだ、と言外に問えば。返ってくるのは含み笑い。 『んー…単なる好奇心だよ。ただ―――あ、戻って来たから切るね~』 「おい!」 相変わらずの空気に舌打ちをひとつ。読めない掴めない理解出来ない、の三拍子が揃った弟。肉親ながら何度手こずったことか。 「…淕」 今度は何を企んでいるのだろう。新しい悩みの種に落ち込みながら、ゆっくり歩き出した。

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