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235.
「お久し振りです」
頭を下げる彼から以前のような傍若無人さは想像もつかない。4年という月日が人柄を変えたのか。
「…ハルは、どこまで知ってる?」
それでも過去を傷つけたことには変わりない。長居は無用だと単刀直入に尋ねた。
「かいつまんで、ですけど。全部…話しました」
「全部…?」
予想以上の事態に思わず組んでいた腕を解く。狡猾な彼のことだから、自分に都合の良いように編集するだろうと決めつけていた。それも、ハルの記憶が欠けているとなれば尚更。
「ここまで来るのに、すごく遠回りしました。でも、これからきちんと償いたい。例え、倍以上の時間が掛かっても……例え―――死ぬまで、でも」
静かに俺を見据える瞳は揺らぐことが無く。
「…その言葉、覚えておくよ」
最後にもう一度視線を合わせて立ち上がった。頷く彼を見届けてロビーを後にする。
まだお昼を少し回ったところ。張り詰めていた緊張と肩の力が抜けたせいか、何だか無性に声が聞きたくなって。
楓くんへ。久しぶりに、電話を掛けた。
「もしも――…」
『あれぇやっぱり兄貴だー』
「……お前」
ところが飛んできたのは予想外の声。聞き覚えのありすぎるそれに、思わず唸ってしまう。
『え、何で怒ってるの?』
本気で分からないという風情の声音にため息をついて、低く名前を呼ぶ。電話越しでも幼い日々の恐怖を思い出したのか、のんびりした口調ながらも事情を説明してくれた。
『今ねー楓くんと遊びに来てるんだけど。トイレ行ってるよー』
「勝手に出たのか」
『三井さんって兄貴のことなのかなあって。気になっちゃったから』
「…名刺」
どういうつもりだ、と言外に問えば。返ってくるのは含み笑い。
『んー…単なる好奇心だよ。ただ―――あ、戻って来たから切るね~』
「おい!」
相変わらずの空気に舌打ちをひとつ。読めない掴めない理解出来ない、の三拍子が揃った弟。肉親ながら何度手こずったことか。
「…淕」
今度は何を企んでいるのだろう。新しい悩みの種に落ち込みながら、ゆっくり歩き出した。
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