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237.
ハルを見舞った日。楓くんからの折り返し電話はなかった。
いつものようにメール画面を開いて、しばらく悩む。年度が変わって忙しい、とぼやいていた文面を思い出して。
(……本当に?)
何の証拠がある訳でもないのに、疑ってしまう。そんな女々しい自分が嫌で、スマホをしまった。
「入るよ」
ノックをして、白い世界に足を踏み入れる。雑誌から目を上げたハル。
「桜が満開だね」
「あー…病院の庭、行こうかと思ったんだけど。俺…花粉症だから」
「そういえば毎年苦しんでたっけ」
椅子を引いて座る。頼まれていた音楽雑誌とタバコを渡すと。
「あ、来週には退院できるって」
「本当?良かった…」
「ただ前みたいな生活は難しいだろうから、ちょっと手伝ってもらいたい」
「それはもちろん。仕事は…?」
「オーナーには事情説明してあるから、しばらく休み貰えた」
「ん、了解」
それきり途切れる会話。こちらをじっと見つめる彼に首を傾げれば。
「……何かあった?」
妙なところで敏いこの友人にはいつも驚かされる。淡く笑って、少し相談してみることにした。
「避けられてる、んだ。多分だけど」
「芹生くん…?だっけ」
黙って頷く俺を眺めた彼は、握り拳で軽く肩を押して。
「…逃げずに話し合え。そんな性格じゃねえだろ」
柔らかい声音とは裏腹に重く真剣な視線。夢から目が覚めたような心地になって、思わず立ち上がってしまう。
「ありがと、ちゃんと聞いてみる」
「おー。上手く行くと良いな」
ひらりと手を振るハルに感謝しながら病室を後にした。
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