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ハルを見舞った日。楓くんからの折り返し電話はなかった。 いつものようにメール画面を開いて、しばらく悩む。年度が変わって忙しい、とぼやいていた文面を思い出して。 (……本当に?) 何の証拠がある訳でもないのに、疑ってしまう。そんな女々しい自分が嫌で、スマホをしまった。 「入るよ」 ノックをして、白い世界に足を踏み入れる。雑誌から目を上げたハル。 「桜が満開だね」 「あー…病院の庭、行こうかと思ったんだけど。俺…花粉症だから」 「そういえば毎年苦しんでたっけ」 椅子を引いて座る。頼まれていた音楽雑誌とタバコを渡すと。 「あ、来週には退院できるって」 「本当?良かった…」 「ただ前みたいな生活は難しいだろうから、ちょっと手伝ってもらいたい」 「それはもちろん。仕事は…?」 「オーナーには事情説明してあるから、しばらく休み貰えた」 「ん、了解」 それきり途切れる会話。こちらをじっと見つめる彼に首を傾げれば。 「……何かあった?」 妙なところで敏いこの友人にはいつも驚かされる。淡く笑って、少し相談してみることにした。 「避けられてる、んだ。多分だけど」 「芹生くん…?だっけ」 黙って頷く俺を眺めた彼は、握り拳で軽く肩を押して。 「…逃げずに話し合え。そんな性格じゃねえだろ」 柔らかい声音とは裏腹に重く真剣な視線。夢から目が覚めたような心地になって、思わず立ち上がってしまう。 「ありがと、ちゃんと聞いてみる」 「おー。上手く行くと良いな」 ひらりと手を振るハルに感謝しながら病室を後にした。

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