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238.
「はよ、芹生………何その顔」
欠伸を噛み殺しながら隣に座った細田を向けば、一瞬で眉を潜められた。
「ちょっと…昨日の夢が、酷くて」
「夢?」
傾いた顔を眺めつつ、大きなため息を吐く。内容までは話せそうにないと告げて突っ伏した。
(雅さんが……あんなこと、言うから)
抱くだの抱かないだの。仲良くなって間もない、しかも他ならぬ三井さんの弟とあれば影響を受けて当然だ。
いやにリアルで刺激的な夢だった、と。目覚めてから布団を捲って絶望。彼の部屋であの雑誌を見つけて以来、全くと言って良い程何もなかったのに。
そんな夢のせいで落ち込む今朝。自分を嫌悪すると同時に、会いたくてたまらないと軋む胸の痛み。
しばらくは戦うことになるだろう。抱える気持ちが日に日に大きくなっていることには気づいたけれど。
(…離れたがってるんなら、俺からは連絡しない)
のそりと体を起こして教科書を開いた。
昼休み。今日はこのあとの授業だけで終わり。4年生ともなると時間割にもだいぶ余裕が出てきた。
いつものように食堂でラーメンを啜っていると、1件のメール。
「……えっ」
悩みの原因。三井さんからだった。
夕方少し会えないかとのこと。確認するまでもなくスケジュールは空いている。
思い当たる理由。もう、これしかなくて。
(別れ話………)
本音を言えば逃げたい。ずるずると、ぬるま湯に漬かってこの関係を続けていたい。
でも、いつかはその時が来る。
だったら早い方がお互いにとっても良いのではないか。
深呼吸をして、画面に指を滑らせた。
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