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どうしよう、まさか―――
ぐるぐると回る頭。まだ残っているアルコールのせいだけではない。相談しようにも相手が居なくて。
真っ先に浮かんだのは三井さん。
けれどもう関係ないことだと言われてしまいそうで、そっと候補から外した。
次はハルさん。ああでも今は俺の記憶がないという。無理だ。
頼れそうなリンさんは…連絡先を知らない、し。
細田…。友達にこんな赤裸々な話をするのは流石に気が引ける。
(………あ)
連絡先をスクロールする指が、止まった。
雅さん、もとい――…淕さん。
かなり迷って、メッセージ画面を立ちあげる。
『お話したいことがあります』
挨拶も何も抜かしたその文章に返事が来たのは、夕方のことだった。
『このまま聞こうか?それとも会った方が良い?』
色々不安ではあったものの、メールよりは直接話す方が助かるとの旨を告げた。
「おはよー楓くん」
ふわりと笑う雅さんに頭を下げながら、連れ立って店内へ。絞られた照明が落ち着いた雰囲気のバーだ。
「マスター、奥借りるね」
「あいよ」
カウンターの中でグラスを磨く白髪の紳士に声を掛けた彼はどんどんと進む。やがて現れる木製の扉をくぐれば、想像通りの個室だった。
ソファーに腰掛ける雅さん。少し迷って、向かいに座る。そんな俺をちらりと見やった彼は傍にあるグラスを取って手早く何かを作り始めた。
「…で、どうしたの?」
目の前に置かれた薄い褐色の飲み物を眺めて、口を開く。取りあえず、自分が覚えている限りのことを話した。
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