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242.
「…これまた大変な人だね、君も」
聞き終えた雅さんは思わずといった体で苦笑い。勢いのまま話してしまったことに今更ながら気まずくなり、飲み物を手にした。
「兄貴には話そうとしなかったの?」
「……考えたんです、けど」
あんな態度を取ってしまった手前、どうしても冷たい対応しか想像できなくて、逃げたのは自分だ。
俯きがちになる俺の隣が揺れて、そちらに顔を向けると。
「…まだ、忘れられない?」
傾いた相貌が、どことなく彼と似ている。彷徨う視線は結局手元に落ちた。
出来ることなら―――
向こうから不要だと宣告される前に。
「忘れ、…たい………です」
言い終わった瞬間、きゅうっと喉が締め付けられるような感覚に襲われる。ともすれば泣いてしまいそうで、拳を握りしめた。
「……楓くん」
彼の、声じゃない。雅さんの声で。
そっと捕らえられた顎に触れる指はやっぱり細い。こうして行動ひとつを比べてしまう自分が嫌いだ。
近づく瞳を呆然と眺める。そして。
「ま、雅……さ、ん…」
反射的に身を引いた俺の右頬を掠める柔い感触。早鐘を打つ心臓が痛い。
「…忘れたくなんて、無いんでしょう?」
どこか寂しそうに笑う彼。
ああ、また誰かを傷付けてしまった。
ゆっくり頷く。散った雫を見ないように、なのかは分からないけれど。
包み込んでくれた雅さんは、思っていたよりもずっと大きくて、そして温かかった。
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