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「…これまた大変な人だね、君も」 聞き終えた雅さんは思わずといった体で苦笑い。勢いのまま話してしまったことに今更ながら気まずくなり、飲み物を手にした。 「兄貴には話そうとしなかったの?」 「……考えたんです、けど」 あんな態度を取ってしまった手前、どうしても冷たい対応しか想像できなくて、逃げたのは自分だ。 俯きがちになる俺の隣が揺れて、そちらに顔を向けると。 「…まだ、忘れられない?」 傾いた相貌が、どことなく彼と似ている。彷徨う視線は結局手元に落ちた。 出来ることなら――― 向こうから不要だと宣告される前に。 「忘れ、…たい………です」 言い終わった瞬間、きゅうっと喉が締め付けられるような感覚に襲われる。ともすれば泣いてしまいそうで、拳を握りしめた。 「……楓くん」 彼の、声じゃない。雅さんの声で。 そっと捕らえられた顎に触れる指はやっぱり細い。こうして行動ひとつを比べてしまう自分が嫌いだ。 近づく瞳を呆然と眺める。そして。 「ま、雅……さ、ん…」 反射的に身を引いた俺の右頬を掠める柔い感触。早鐘を打つ心臓が痛い。 「…忘れたくなんて、無いんでしょう?」 どこか寂しそうに笑う彼。 ああ、また誰かを傷付けてしまった。 ゆっくり頷く。散った雫を見ないように、なのかは分からないけれど。 包み込んでくれた雅さんは、思っていたよりもずっと大きくて、そして温かかった。

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