246 / 330
246.
「どう?見れた?」
「雅さん……」
「情けない声出さないの、ほらこれ飲んで」
湯気の立つマグカップを差し出され、受け取る。白いそれはマスターお手製のホットミルクだという。
「…美味しい」
「落ち着いた?」
カランと響く氷の音に、目の前の彼を見やって頷く。ウイスキーらしきものを煽る雅さんはスマホを回収して。
「知り合いに頼んで特別に貰ったんだ。内緒だよ?」
「ありがとう、ございます…でも、なんで…?」
頭を下げる俺を眺めて腕を組む彼。ふっと浮かべた淡い笑みは酷く儚い。
「…昔から兄貴と張り合って生きてきたんだ、僕。性格は全然違うのに、好きになる物も興味のある事もおんなじで。…だから、君も」
ピタリと据えられた瞳があまりに真剣で、不意に感じる居心地の悪さ。手元に逸れた視線にほっと息を吐く。
「…コンビニで見た時に、何となくそんな予感はしてた。好きになるって。でも、やっぱり兄貴じゃなきゃ駄目なんだろうね。今日会って…はっきり分かったよ」
切なく響いたその独白に、胸が締め付けられるような気持ちになる。きっと、この人は、とても繊細なんだ。
「本当は無理矢理にでも奪いたいぐらいだけど、それじゃ意味ないから…ね。今後は雅じゃなくて名前で呼ぶこと。それで貸しはチャラにしてあげる」
「ま……淕、さん」
「うん。あとは兄貴ぐるみでも良いから、一緒に出かけよう」
満足そうに頷いた淕さん。今言っていたことが本当だとしたら、やっぱり嫌な思いをさせてしまった。
「ありがとうございます……あの、また、仲良くしてくれますか…?」
遠慮がちに出した提案を受けた彼は、虚を突かれたように目を丸くして。なんとも言えない表情を浮かべる。
「…隙が多いとか、そんな感じのこと言われない?」
ついこの間、耳にしたセリフ。瞬く俺に手を振って。
「あー…何でもない。兄貴も前途多難だなと思っただけ。僕で良ければいつでも相談乗るからね」
カラン、と。再び氷が音を立てた。
ともだちにシェアしよう!