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飲み会の日から連絡をしていなかった番号。深呼吸して、発信音を聞く。 『…もしもし』 「今、お時間平気ですか?」 大丈夫だと笑った、山田先輩。何と切り出して良いのか分からず、暫しの沈黙。 『……何も、無かったよ』 「え…?」 『あの日。俺のスーツに吐いて、服を脱ぎ散らかしたお前の横で寝てただけ』 くすりと笑う彼の表情が浮かぶ気がして、途端に申し訳なくなる。迷惑を掛けてしまった。 「すみません…ご迷惑をお掛けして…」 『良いよ。俺も変なこと言ったし』 「……あ」 そういえば。起きた時、意味深な発言で混乱させられたことを思い出す。 『…もう時効って事で良いかな。俺、お前のこと好きだったんだ』 「先輩…」 過去形のそれに、確かな時間の流れを感じて唇を噛む。 『最後ぐらい良い思いさせてもらっても罰当たらないかなーって。寝顔、可愛かった』 「最後…?」 『…ああ、引っ越すんだ。九州の方に』 通話を終えてもしばらく動くことが出来ず。 色々なことが一気に目まぐるしく動き出して。状況証拠は全て揃っている。もし裁判だとしたら、きっと俺は落ち着いて闘えただろう。でも、これは気持ちの問題だから。 理詰めで進められないもどかしさ。 恋をしているな、と思う。 三井さんに連絡したのは、それからだいぶ経ってからだった。

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