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微かに聞こえる水音を前に、どさりと座り込む。普段通り振る舞うのがこんなにも大変だとは。 明らかに緊張している楓くんは欲目抜きに可愛い。伝えたくて、けれど結局飲み込んだ。 可愛いだとか綺麗だとか、それこそ美人だなんて言おうものならその後は容易に想像がつく。 抱いている最中に口走らないようにと、もう一度気を引き締めた。 かく言う自分も余裕が無い。 相手が男性だから、というのも理由ではあるけれど。 (……好きだから、なぁ) 愛情を介した性行為はいつぶりだろうか。仕事でやむなくするそれとは違う。 恋人をどうやって抱いていたか、思い出せないぐらいには過去の話だ。 分からないまま、もやもやする気持ちを持て余していると。 「…三井さん」 「ああ、おかえ…、り」 顔を上げて固まった。普段は俺が着ている白いバスローブを纏った楓くん。サイズが合わないとは予想していた、が。 (…これは) 大きく開いた胸元から見える滑らかな肌と、浮き出た鎖骨。視線をずらせばほんのり色付く頬が目に入った。 「髪…ちゃんと、乾かすんだよ」 もう手遅れだと言われればそれまでかもしれない。 無駄な足掻きだとは知りつつも、あまり見ないようにしながらドライヤーを手渡して。 脱衣所に入るやいなや、すぐ後ろ手に扉を閉める。ずるずると崩れ落ちそうになるのを堪え、洗濯機にもたれ掛かった。 これから向かい合って平常心で居られる自信が無い。 自分の早とちりで、きっと怖い思いをさせてしまったから。今日ばかりは絶対に優しくしようと決めていたのに。 早くも揺らぐその決意の脆さにため息を吐いて、上着に手を掛けた。

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