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意識を失った楓くんを見て、やっとそこで我に返る。 (……しまった) 初めてだという認識は途中からすっぽり抜け落ちて。 と、いうよりも。 纏うのは本当に初めてなのか疑わしいレベルの色気。 頭を抱えたくなりつつも一通りの後始末を終えて、隣に寝転ぶ。普段よりも厚く腫れた唇は誘うように半開き。 (…この子は) どうしてか、もやもやとした気持ちに苛まれ。寝ている彼の鼻をつまんだ。何に腹を立てているのか、呆れているのか。 「ん……っ、む…」 赤子がむずかるように眉をしかめたその表情を見て、段々と薄れる苛立ち。どうも調子を狂わされっぱなしだとため息をつきながら天井を仰いだ。 「…三井さ、ん…?」 「ごめん、起こしたね」 掠れる声を聞き留め、顔を横に倒す。とろりと溶けた瞳のまま微笑む楓くん。たまらなくなって鼻先へ唇を寄せる。 「身体、平気?」 「んー………」 だんだんと焦点の合う双眸。隠れてしまった甘美な色を惜しく思いながら、指先で目元を撫でる。 「…えっ、あ…!」 「楓くん?」 ばさりと毛布を頭まで被ってしまった、唐突な行動に驚いて。何があったのかと丸い布団を抱き寄せる。 「む、無理…です……埋まりたい…」 「埋まりたい?」 「…は……恥ずかし、くて」 ぼそぼそと紡がれる想い。理解した瞬間、どうしたって緩む頬を抑えきれなかった。 「これから慣れよう?…一緒に」 恥ずかしいのは楓くんだけじゃない。言外にそう滲ませると、ややあって覗く顔。 「…三井さん、は」 「うん?」 「もう、慣れてるじゃないですか…。その、…男の人、と」 泳ぐ視線を前にしばらく考えて、愕然とした。まさか伝わっていなかったとは。

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