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「…ねえ。どうして…慣れてるって、思ったの?」
少し曇った声が耳朶を滑って、頭上の布団を肩まで下げる。苦笑いと垂れた眉。心無しか悲しげに見えないこともない。
「だって…全然、その…迷ってなかった、から」
間違いなく男性を抱いたことのある、という手つき。的確に与えられる刺激を辿れば、惚れ惚れするような雄くさい表情とかち合って。
思い出すと簡単にまた燻りかける熱にため息をひとつ。
それを呆れと勘違いしたのか、益々浮かない顔になる三井さん。何故だか弁解するのは癪で、再び布団を持ち上げた。
「信じてもらえないかも、しれないけど……初めてだよ。男の子を抱いたのは」
「…そうですか」
「色々調べたのが裏目に出たかな…」
苦笑いの意味を知りたくて、体をそちらに向ける。振動が伝わったのか、ぱちりと目を開けて。
「…もう、傷付けたく、なかった」
精神的にも、肉体的にも。続く想いが聴こえた気がして、ようやく自分の勘違いを悟る。
「三井さん、」
触れて良いのかと彷徨う手を捕らえて、そのまま頬に導く。震える指先は相変わらず繊細だ。
「ごめんなさい。………と、ありがとうございます」
綺麗な瞳が見開かれ、そして安堵が浮かぶ。啄むように口付けた彼は体を起こして。
「…良かった。分かってもらえたみたいで」
何ならパソコンの履歴、見る?と問われて丁重にお断りした。
くすりと笑う彼はサイドテーブルのペットボトルに手を伸ばし、蓋を開ける。それをぼんやり眺めていると、突然首の裏に差し入れられた手のひら。
「な、に…っ、ん……ふ、」
「…声、枯れてる」
「だっ…誰のせいだと……!」
いわゆる口移しで飲まされた水は常温よりも少しだけ温められていて、互いが加えた熱を感じると同時に赤面した。
「んー…俺?」
「……何で疑問形なんですか」
「はは、ごめん」
軽く睨めば悪びれる様子もなく笑う。つられてこちらの頬も緩んでしまった。
「もう1回、」
「うん?」
「……飲ませてください」
上体を起こしたままの彼を見上げながら、緩く服を引いて。ぽかんとした表情から一転、蕩けるような微笑みに変わった。
「ふふ、いくらでも」
「…すき」
堪らず溢れた愛は、どうやら受け取ってもらえたようだと。
降ってくる優しい温度の中に感じながら、そっと目を閉じた。
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