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慣れないことをした疲労もあり、もう瞼がくっつきそうだ。たゆたう意識の中で、ふと先ほどの言葉を思い出す。 「三井さん…」 「なぁに」 応える響きの、なんと心地良いことか。堪らず目の前にある胸板に擦り寄った。 「さっき……色々、調べたって」 「うん、言ったね」 髪を滑る指が、どこまでも優しい。甘い感覚に緩む思考を気にしている余裕はなかった。 ただの、本心が露呈する。 「…もう、みないで」 「楓くん…?」 残った気力をかき集めて、ゆるゆると瞼を上げる。琥珀とも蜂蜜ともつかない不思議な虹彩を見つめながら。 「他の、ひと…じゃなくて、俺だけ……」 「……約束するよ」 柔い唇で宥められ、再び落ちる瞼。何だか勿体ない気もするけれど、もう、限界だ。 今なら言えるかもしれない、と。散り散りになりそうな意識を掴んで音に代える。 「…あの、紙袋、も…いや、です……」 触れていた指の動きが止まって。何故だろうと考える間もなく眠りに落ちた。 「紙袋……、」 しばらく考え込んだ三井。やがて目を細めると、仕方がないとばかりに吐息を漏らして。 「…起きたら聞かせてもらおうかな、お姫様」 寝息を立てる愛しい人の額に口付けて、自らもまた眠りへ旅立った。

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