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これで良い。 そう自分に言い聞かせて、もう何時間経っただろうか。 (…なんで) あんなに必死な声が届くとは考えてもいなくて、正直面食らった。 まるで、本当に理由が分からないとばかりに紡がれる言葉。 今すぐこの端末で連絡して、全て嘘だったと言ってしまいたい。そう思う程には、好きだった。 けれど、もし演技だとしたら。 (今頃………) せいせいしているに違いない。 ふ、と息を吐いてベッドに寝転んだ。 [男の喘ぎ声なんて興奮材料にならないでしょ] 見ていないはずの表情を作り出してしまう自分を責めても、もう遅かった。 付き合うという関係において。性行為が全てではないと分かっている。けれど重要な役割を果たしているのも事実だ。 女性と違って面倒な造りの上に、子供も産めない。だとしても自分はあの時間が好きだったし、きっと彼もそうだと思い込んでいた。 俺を抱くことで発散される性欲。その役割も果たせなくなったら、もはや重荷でしかない。 だから、これで良いのだと。 呟いてみても気持ちは沈んだまま。うじうじとした自分だけが前に進めないような状況を嘆いて、寝返りと共に頭から布団をかぶった。

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