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263.
「とりあえず…お疲れ様」
「ん、サンキュ」
渡したマグカップからは僅かに湯気が立ち上っている。それをぼんやり眺めるハルはどこか魂の抜けたような雰囲気で。
「…二人して不調、か」
「うん?」
「いや、こっちの話。それで…どうしたの?」
何度か口を開いては閉じ。やがて小さく紡がれる事実は。
「……細田、に。告白…され、た」
「えっ…おめでとう、…?」
何故か浮かない顔の友人を前にして、祝福も疑問形へと形を変える。首を傾げた俺をちらりと見やって、コーヒーを啜るハル。
「…色々と思うところがあってさ。まあ俺よりお前の方が酷い顔してるし、話聞いてやるよ」
で?とマグカップを置いた彼に苦笑いを送り。
「………別れようって、言われた」
口に出せばまたズキズキと痛み出すのは何処だろう。目の前にある顔が見られない。
「そりゃまた……喧嘩?」
静かな問いに曖昧な否定を返して、あの朝のことを話した。
信じられない、と。俺の何が彼にそう思わせてしまったのか。理由が分からないだけで、こんなにも歯がゆいなんて。
「ふうん…なるほどな」
ひとつ頷いたハルは、それ以上何も口にしなかった。
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