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ハルが家を訪れた、その翌日。 動物病院からどうやって帰ってきたのか、覚えていない。家に着くなり玄関の床が迫ってきて、俺の意識はそこで途切れた。 延々と流れる着信音に起こされ、目を開く。 「……っ、え…」 開いた、はずだった。 白い。視界を覆うのは眩しいまでの、白。 鳴り響く音楽の中で瞬きを繰り返すも、状況は変わらなくて。半ばパニックになりながら手探りでスマホを探す。 頭の片隅に残っている、どこか冷静な部分が知らせた名前は。 「ハル、っ……」 『お?悪い、寝てた?』 のんびり響く声に、個別の着信音を設定しておいて良かったと息を吐く。 「あの……今から、来られる?」 『え?…どうした?』 途切れがちの言葉。端々に滲む焦燥を汲み取ってくれた友人に感謝しながら、上手く纏まらない思考を落ち着けようと必死に紡ぐ。 「…視力、っていうか…目、見えなくなって。昔も一度あったから、大丈夫……じゃないんだけど、取りあえず病院に付き添っ―――」 「タクシー廻すから待ってろ、俺もすぐ行く」 不通音が響く前、確かに聞こえた頼もしい声音。 念のために瞼を開閉しても、白い世界が変わることはなかった。

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