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辿り着いた総合病院で、幸いにもすぐに診察してもらえた。 「…お帰り。先生、何だって?」 会計を待つ間、隣に居るだろうハルが問いかけてくる。 「短期間に極度のストレスを感じたことがきっかけで、視神経炎を起こしてる…らしい」 「視神経炎…」 「大学受験の時も追い込まれて、同じ症状に陥ったことがある。もう大人だし、それよりは軽いと思う。しばらくすれば治るから入院は必要ないけど、ステロイド剤の治療だって」 瞬きしても、瞼を閉じても。純白に塗りつぶされた世界。 「ストレスって…芹生くん、?」 視覚が断絶されているぶん敏感になった聴覚は、珍しく気遣わしげな彼の声音を捉えて。 「…も、あるけど……」 この先を口にするのが、怖い。自分ですらまだ信じられていないというのに。 「……………ミウが、死んだ」 「は……っ、!?」 ガタリと椅子から立ち上がる振動。そのタイミングで呼ばれた俺の名前に一瞬詰まった彼は、行ってくると言いおいて離れた。 心臓発作。 ただ文字にしてしまえばたったそれだけの、原因。 慢性的なものではないから、そこまで自分を責めることもないと。宥めてくれたのは獣医だったか。 俺にとって、大事なもの。 ひとつずつ離れて行く虚無感に、ただ歯を食いしばるしかなかった。

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