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ヒュッ、と息を呑む音がした。
綺麗だと。言われて、今、やっと気づく。
知り合ってから長い間、この人は―――
「楓くん……可愛いとか、格好良いとか。種類は問わず、容姿に関して触れられたくないでしょう?」
その類の言葉を一切口にしなかった。初めは心地良いと思っていた扱いも、次第に――具体的には、付き合うようになってから――物寂しさへ変わって。
ゆっくり考える暇もないまま、現在に至る。
何故なのか、答えが見えた。
「…例えば俺が、最初からこういう状態で。それでもきっと、君に惹かれた。好きになったと思う」
喉の奥がキュッと窄まる感覚。瞼の裏に隠れていた琥珀が現れ、視線が一瞬絡まったような気がして。
「ほんとうに…透明で、美しい。中身があるからこその、見た目なんだよ」
辿る指がどこまでも優しくて、今まで拘っていたことも、嫌だと感じていたことも。全てがどうでも良くなった。
「…言われたい、です」
三井さんに。彼に、なら。
例えどんな言葉であれ、受け入れられる。
主語のないそれを正しく理解してくれたのか、頬に寄せられた唇。宥めるように甘く囁かれたのは。
「うん。たくさん言ってあげる。……だから、泣かないで
」
そこで初めて、自分が泣いていたことを知った。汲み取ってもらえた意図が嬉しくて、零れる涙はまだ止まりそうにない。
「…とは言ったものの、楓くんの泣き顔…好きなんだよね。見られないのが残念だなぁ」
あやすように背中を撫でられ、はっとした。大事な疑問がまだ残っている。
「どうして、見えなくなったんですか…?」
もしかしたら、一生このまま―――…。深刻な状況に、再び速度を上げる鼓動。痛いほどの静寂を経て、ふわりと笑った三井さんは。
「楓くんから…キス、してくれたら。教えても良いよ」
「へ…?」
声音の調子から、自分の杞憂だったと悟るまでに数秒を要した。じわじわと浸透するのは、拗ねと羞恥。
「むっ…無理、です…!」
「ほら、俺は見えないから。早く早く」
急かす彼を恨みながら、それでも知りたいと思った。震えてしまう指を頬に添えれば、嫌でも顔を眺めることになり。
伏せられた長い睫毛、スッと通った鼻筋。その下にある薄い唇をなぞって、息を詰めた。
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