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相手からは見えないことを勇気に代え、そっと唇を押し付けた。触れるだけのそれが、却って堪らなく恥ずかしい。 「…ふふ。見えるようになったら、またしてもらおうかなぁ」 「もうしません………」 初めて自分から送った口付け。羞恥を煽られ、きっと顔は真っ赤だ。 けれど。 "また"の約束ができる。些細な言葉に滲む未来が嬉しくて。 「…教えてください」 そっと服を引いて催促する。一刻も早くこの空気から逃れたかった。嘆息した彼を纏う雰囲気が変わり。 「…ミウ、が………死んだ、んだ」 やっと文章の意味を理解して、しばらく。それでも声が出なかった。 「な、…、…えっ……?」 部屋を見渡しても、姿が見当たらない。元気がないと言っていたハルさん。入院しているのだろうか、と考えていたのに。 「心臓発作だって。持病は無かったけど、あっという間で……」 淡々と述べる彼は、果たして泣いたのだろうか。 何となく…全てを背負ってしまっている、気がした。 「傍に、居られなくて……ごめんなさい」 慰めの言葉は、きっとたくさん聞いている。お悔やみの言葉も今は必要ない。 ただ、大事な時に支えてあげられなかった自分が悔しくて。一見変わらぬような彼をそっと抱きしめた。 「……もっと早く、気づいてれば。もしかしたら…って」 「はい」 「なんで……」 「はい」 「なん、で…みんな、いなく、な……っ、」 穏やかに返事をしていると、徐々に震えていく声。濡れる肩口が温かい。 みんな、という。その言葉。 きっと俺も含まれている。だから、 「三井さんだけのせいじゃありません」 背中を撫でて囁く。この繊細で美しいひとが、少しでも自責の念から解き放たれますようにと。 「…ずっと、居ます」 「え…?」 「隣に。…好きですよ、三井さん」 ゆっくりと上げられた相貌。水滴の乗った長い睫毛が揺れて、それから。 「…楓くん」 くしゃりと歪んだ微笑みは、それでも綺麗だった。

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