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返ってきた沈黙に、はらわたが煮えくり返る思いだった。 「……そう。細田くんあたりかな」 わざと大仰にため息をついて、楓くんの後頭部に手を添える。今、彼はどんな表情を浮かべているのだろうか。 反応した性器を見て、一番にフェラが出てきた時点で気付くべきだった。もし本当に経験のないウブな子の場合。普通は放っておくか、せめて手コキぐらいが妥当。 咥えたことがあるから、あの選択肢を提示したのだと。俺は信じて疑わなかった。職業柄、慣れている女の人達を相手にしてきたから、そう判断するしかなくて。 「喉、借りるね」 それでも一応断っておこうと、出した声は自分でも驚くほど冷えきっていた。このまま気持ちも冷めてしまえばお互いに傷つけ合わずに済む。 (…なんて) 簡単に諦められるはずもない。試す前から分かっている自分を滑稽だと笑う。 いつもしているように、カリで上顎を擦って喉奥に押し付けた先端。ズキリと痛む心は無視して昂る身体に呆れながら、精を吐き出そうとした、その瞬間。 「っ…ちょ、……!」 予想外の力で膝を押され、ずるりと口内から抜けた陰茎。本当にタイミングが悪ければどうなってしまうのか、知っている。 咄嗟に目を開けて、固まった。 今までの白と違う。 ―――色が、ある。 とは言ってもまだ輪郭はぼんやりとしたもの。例えるなら、視力が0.1にも満たないような世界というべきか。 突然変わった状況に、ただ呆然としている俺を眺めた楓くんは…予想通り、散々の体相(ていそう)。 「……っ、ごめ―――」 はっと我に返り、伸ばした指で頬に付いた白濁液を拭おうとして。 けれど、指先を濡らすのは水滴。すぐに皮膚へと吸収されてしまうそれは、もしや…… 「…かえ、で、くん」 伸ばした手は空を切った。 閉まりかける扉の隙間。聞こえたのは、小さく鼻を啜る音。

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