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すぐに風呂場へ駆け込んで、シャワーのコックを捻る。頭上から降ってくるのは冷たい水。 違うと言えば、信じてもらえるだろうか。 付き合う前。もっと言えば、初めて名前を聞かれたあの日以降。やたらと細田を気にする彼が分からない。 温くなったシャワーに、ほうと息をついた時。 拾ったのは脱衣場のドアが開く音。 「………ごめん」 磨り硝子の向こうに見える影が揺れて、弱く吐き出された謝罪。応えようと口を開いたものの、何を言うべきか躊躇って、結局黙り込んでしまう。 「仕事で…相手にしてきた女性達のせいだとは言わない。勘違いした俺が悪かった。分かってあげられなくて、ごめん」 再び響く謝罪に、少しだけ胸のつかえが取れた気分だ。 彼の職業柄、枕を共にする女性はきっと、いわゆる慣れた部類に入るのだろう。彼女達と同列で扱われることが堪らなく悲しかった。 もういいです、と伝えたくて。シャワーを止める。 「…でも、幸せを感じたのは、君だけだよ」 静まり返る空間を満たした言葉。じわりと浸透するにつれ、それはやがて確かな喜びに繋がって。 「楓くん、は。ちゃんと…真剣に、抱きたいと、思った」 戸惑いながらも集めてきたことが窺える、本当の気持ち。ぎゅっと握りしめた拳を見つめて深呼吸をひとつ。 仕事だから仕方ないと言い聞かせてきた。でも、どうしたって落ち込んでしまうのが人間というもの。 (……分かってる) 物分かりの良い恋人を演じる自分が嫌いだった。でも、彼の本気が。本気の気持ちが、俺だけに向いているのなら。 「タオルとドライヤー、置いておくね」 ドアの閉まる音。 逃げたくせに早く顔を見たい、なんて。数分前と真逆の思考に笑って浴室を出た。

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