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重苦しい梅雨も開け、夏が近付いてきた7月中旬。 カーテンから差し込む光に目を細める。ほとんど以前と変わらないような視界にほっと息をついて、リビングへ向かう。 「…おはよう、ミウ」 額縁に収まる写真を撫でて微笑む。それから簡単に朝食を作って、向かうのは病院。 「うん、もう大丈夫そうだね」 「そうですか……ありがとうございます」 満足そうに頷く医者に頭を下げて、念のためにと視力を測ってもらった。以前は両目とも1.0見えていたそれが、今は0.8に。 「やっぱり少し下がりましたね…でもこれだけ見えていれば、眼鏡等は必要ないと思いますよ」 カルテを捲る看護師と話をして、診察室を出た。 突き抜けるような青空を仰ぐ。元の視力よりは落ちるという説明は受けていたから、さして驚かなかったものの。慣れるのに時間が掛かりそうだと細くため息をついた。 病院を離れてスマホを取り出せば、見計らったかのようなタイミングで着信が。楓くんと表示されたそれを目にして緩む口元。 「…はい」 『あ……細田?ごめん、今日…行けそうにない…』 電話口から聞こえる弱々しい声は間違いなく彼のもの。眉間に寄りそうな皺を指先で伸ばして、抑えた声で問う。 「……楓くん?」 『えっ、な、……っ!』 一気にごそごそと騒がしくなった向こう側。画面を確認したのか、間違いに気づいたようで。 『すっ…す、すみません……あの…』 腹が立って思わず唇を噛み締める。切るよ、と口を開いた瞬間に聞こえたのは微かな咳。 「…ねえ。風邪、引いた?」 『………引いてない、です』 くしゃりと頭を掻いて。夏風邪は長引くと聞いているから、こじらせると厄介だ。それに、きっとこの時期は試験があるはず。 「熱は?」 『…少し、だけ』 「薬は?」 『…まだ、です』 「ご家族は?」 『…今は、誰も』 ああもう、と。漏れる唸りを逃がして腕時計を確認する。オーナーに検査結果を報告するまで、あと数時間。 「食べたいもの、ある?」 『で、でも……』 意味を悟ったのか渋る声。普段よりも濁ったそれは、確実な不調の表れだ。 「今度は俺に看病させて」 意図せず懇願するような響きになってしまった。僅かな沈黙。やがてぽつりと落とされた言葉に、薄く笑って歩き出す。

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