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8月。うだるような暑さとは別世界のカフェで涼んでいると、1件の着信。画面に表示された名前を見て緩む頬はどうしたって抑えられそうにない。 「もしもし」 『あ、楓くん?』 電話口からの音も美しいのか、と今更考えながら返事をした。目の前のノートパソコンを閉じて三井さんの声に集中する。 『来週の土日って開いてる?』 「土日……ですか」 想像するのはどうしても、泊まりがけのデート。顔に集まる熱を散らそうと努めながらスケジュール帳を取り出す。 「ええと…日曜の夜から予定があるので……その前までなら」 『なるほど。…実は、13日が兄の誕生日でね。向こうに帰るんだけど……』 ―――…一緒に、どう? 少し遠慮がちに届いた誘い。 向こうに、帰る。 「……えっ。ご実家ですか…!?」 意味を掴んだ瞬間、思わず瞬いてしまった。うん、と笑って続けられた言葉。 『淕も帰るみたいだし…嫌じゃなければ、ね。ちゃんと家族に紹介したいんだ』 ぎゅっとスマホを握りしめて、スケジュール帳のマスに視線を落とす。 自分達の『結婚』は、叶わないから。 その代わりきちんと挨拶しておきたい気持ちもあった。 「…ぜひ、ご一緒させてください」 『本当?良かった…』 ほっと漏れ出る安堵の息。彼も緊張していたのかと思い当たって、ふと込み上げる愛しさ。 日に日に募る想いがあたたかくて、……少し、怖くもある。 予定の隙間に書き込んだ小旅行。 どうか幸せなものでありますようにと、願いを込めた。

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