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「北海道ってやっぱり寒いんですね…」
「湿気が少ないからそう感じるのかも」
空港からタクシーに乗り込み、三井さんに話しかける。一見、普段と変わらない雰囲気。けれど、良く観察すれば僅かに強ばる目元が見てとれた。
膝に置かれた手のひらを眺めて、上からそっと自分のそれを重ねる。窓枠に乗せていた肘が離れ、驚いたようにこちらを凝視する彼は。
「……大丈夫、だよ」
ややあって、淡い笑みを浮かべた。自分に言い聞かせるような響きが半分、残りは俺に向けられていて。
そこで初めて、知らず知らずのうちに自身も緊張していることを認識した。深呼吸しながら肩の力を抜く。
温かい指が、優しく絡まった。
「連絡くれたら空港まで行ったのに、もう!」
語気のわりにさほど怒っていない様子で、それでもぷりぷりと頬を膨らませるこの人は。お母様、だろうか。
「もう良い年齢だし、危ないから運転しないで欲しいけど」
「あら、健吾に行かせるわよ」
柔らかく告げた三井さんが、一瞬固まってから破顔する。してやったりと茶目っ気たっぷりに笑ったその女性は俺の方を見て。
「ごめんなさいね、疲れたでしょう?さあ、上がってちょうだい」
「あ、いえ…!お世話になります」
慌てて頭を下げれば目尻の皺が深くなる。雰囲気が、三井さんと似ていた。
通されたリビングで懐かしい顔と再会することに。
「おお、久しぶり~」
「淕さん!」
ひらりと手を振る彼は相変わらず。迷わずきちんと名前を呼べたことで少しこそばゆいような気持ちになっていると、隣の三井さんが腕を引いた。
「……楓くん、こっち」
連れて行かれたのは淕さんから一番遠い席。ちら、と淕さんに視線を投げればやれやれといった様子で肩を竦めた。
「あらあら」
口元に手を当てて目を丸くするお母様の横に座るのは、これまた瞳が三井さんにそっくりな男性。年齢的にきっとお父様だと当たりをつける。
「芹生くん、だったかな。遠い所を良く来てくれたね」
彼のものよりも、もっと深い色を湛えた瞳。どこか外国人めいた造りの顔が僅かに綻んで。もうすぐ健吾が、と言いかけたところで背後の扉が開く。
「悪い悪い、遅くなった!荷物、部屋に運んどいたから」
入るやいなや、三井さん共々背中を叩かれる。驚いて振り向けばお母様と似通った顔立ちと黒髪の男性。
痛みで眉をしかめた三井さんに、続いて現れた女性が謝る。そのまま男性の耳を引っ張って席についた美人の振る舞いは、鬼嫁を連想させるものだった。
中央に置かれた鍋の蓋が開くと、立ち上るのはえもいわれぬ香り。鳴ってしまいそうになる腹部を咄嗟に押さえると、隣の三井さんがふわりと目を細めた。
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