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291.
ふかふかのベッドに組み敷かれ、三井さんの背中越しに天井を見た。豪快にシャツを脱ぎ捨てる彼に笑いかけながら、惜しげもなく晒された腹筋を撫でて。
唾液を交換させながら、指が辿り着いた先の肩甲骨。浮き出るそれは、きっと後ろから眺める方が艶めかしいだろう。
ふとそんなことを考えて、強烈な既視感を覚える。この部屋で抱かれた回数はそんなに多くない。だとしたら、何故―――…
視線が捉えた、部屋の扉。そこにあるはずのない影を見た気がして、一瞬のうちに全てを理解する。
途端、襲ってくるのはとてつもない羞恥。
急激に染まる頬を見かねたのか、彼が囁く言葉。それすらも予想できる。いや――聞いたことがある、から。
「恥ずかしい…?」
「…あ、当たり前です…!」
反射的に答えてしまってから、はたと気付く。この行為が恥ずかしいというよりは、今よりもずっと前。夢で見たことを反芻している状況が恥ずかしいのだと。
「いつまで経っても慣れないね、君は」
どうやら前者だと勘違いしている様子の彼に、あえて否定する必要も無いと口をつぐむ。回数を重ねている割に慣れないのも本当のことだ。
「――だって…三井さん、全然抱いてくれないでしょう…?」
どうしても少し拗ねたような口調になってしまい、嫌でもあの夢を思い出す。この辺りから途切れがちになった声。
夢の彼は何を告げたのだろうか。密かに胸を高鳴らせながら、次の反応を待つ。
「…それは…、君を、大事にしたいと思ったから」
繊細な芸術品を扱うように梳られた髪。細い瞳が、少し、揺れている。
ああ、不安なんだ。
すとんと唐突に落ちてきた感覚は、そのまま胸中に留まって。どうにかこの気持ちを伝えなければと必死で思考を巡らす。
そう簡単に壊れたりしない。逃げも隠れもしないから。
だから、
「ちゃんと、好き…です」
結局これしか言えなかった。けれど、それでも伝わったのか、いつもの何倍も強い力で抱きすくめられる。やっとの思いで背中を撫でればようやく離れるしなやかな体躯。
「俺も好きだよ、楓くん」
そう言って、彼があまりにも綺麗な笑顔を浮かべるせいで。つられて微笑んだ眦から一筋、シーツに吸い込まれる雫。
絶望したあの日と同じ涙を流したはずなのに。
今は、こんなにも、幸せだ。
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