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292.
9月に入ってしばらく。学校が始まる、少し前。
「キャンプ?」
目の前の細田に首を傾げる。そう、と頷いて淡く笑った。
「ハルさんがどうしても行きたいって駄々こねてさ、せっかくだからお前らも誘おうと思って」
「んー…その日なら俺は空いてるけど」
「一緒に行くの、ルイさん嫌がんねえかな…」
少し心配そうな表情を浮かべる彼に首を振った。
杞憂に終わるだろう。三井さんの心が完全に読めるかと言われれば否と答えるが、それでも。
「大丈夫だよ」
「…ふうん。何で?」
やたらと自信に溢れた声音になってしまい、取り繕う間もなくすかさず切り返される。
「俺がしたいこと、否定した試しがない」
言ってしまってから、これはもしやとてつもない爆弾を落としてしまったのでは…?と内心で冷や汗をかく。
「はは、愛されてんだな」
「……そう、かも」
すうっと細くなった瞳を受けて考える。
かも、ではなくてその通りだ。彼はとかく俺に優しい。贔屓目抜きに見ても、それは惚れた欲目以上のもので。何か返したいとは思っても、結局は年齢に甘えてしまうばかり。
「じゃあ一応ルイさんにも聞いといてくれるか?」
了承して、4人でのキャンプに思いを馳せた。
「晴れて良かったですね!」
隣の三井さんに語りかけると穏やかな微笑みで返されて。太陽光が差し込む色素の薄い睫毛は、まるで宝石のように輝いている。
どうしてだかきゅんと胸が締め付けられ、思わず指を伸ばした、その時。
「こーら、そこ!2人っきりの世界作るんじゃねえよー!」
「まあまあ落ち着いて…」
手にしたバケツを振り回さんばかりの勢いで叫ぶハルさんと、笑いながら宥める細田。すいませんと頭を下げたのは三井さんに対してだろうか。
ひらりと手を振って立ち上がりかけた彼が、少し身を屈めて。
「…コテージは別でしょう?」
耳朶に落とされた密やかな呟きは、昼間だというのに甘く濡れている。それだけでも充分刺激が強いのに、極めつけのひとこと。
「続きは夜……ね、」
ぽん、と頭に乗った手のひら。いつもより僅かに温度が高いように感じて、煩い心臓を押さえながら彼も同じ気持ちであることを願った。
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