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「…ふふ、可愛かった」 見上げる先の三井さんが浮かべた、綻ぶような柔らかい微笑み。恥ずかしいやら嬉しいやらで、きゅうっと喉が窄まる。 「軽く洗おうか」 いとも簡単にふわりと抱き上げられ、椅子に腰を下ろした三井さんと向かい合う形で座る。 そっと後孔に伸ばされた指が開ききった縁をするりと撫でて。ゆるやかなその動作にさえも快感を拾ってしまう己のはしたなさを自覚して、どうにも泣きそうになる。 もしも、自分が女性であれば。わざわざこんな風に後処理をすることもなく、面倒な事前の準備だって必要ない。壊れ物を扱うような態度は、大事にしたい気持ちの表れだと分かっているけれど。 「…楓くん?」 求めているのは、こちらだけなのだろうか。いつも1回きりで終わってしまうそれを悲しいとは思わずとも、幾らかの寂しさを覚えるのは確かで。 日頃から積もった不安の山が、崩れる音がした。 覗き込んでくる双眸から視線を逸らして、後ろに回った彼の手を取る。非日常な旅行気分に浮かされている今だから、言えること。 「た…り、ない、です……」 ごく小さな声のつもりだったのに、浴室の反響構造が手伝ってしまったそれは、彼の耳にしっかり届いたはずだ。 反応がない彼を不安に思うこと数秒。そろりと顔を戻せば、見たこともないような三井さんが居た。 「…あ、の、……っ」 謝ろうとした矢先、また唇を奪われる。深く深く貪るような口付けの中に小さな快感の芽を見つけて、ひくりと震えたのは熱い身体。 普段とかけ離れた荒々しさに、まさか怒らせてしまったのでは――と考える間もなく抱きしめられた。うっそりと嗤う彼が這わせる指は、食事のせいで心なしか膨らんだ下腹部へ。 「……良いよ。覚悟して」 「っ……ぁ、…」 ワントーン低い掠れた声に当てられ。ぞくぞくと背筋を伝うのは、紛れもなく甘い快楽。いっそこのまま食べられてしまいたいと、目の前の鋭い瞳に浮かんだ色を嬉しく思った。

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