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存外、三井さんが寒さに弱いことを知った。早々と冬仕様に装いを変えた室内にふと笑みを零す。 いつものように、彼の自宅で。 「……なあに?」 振動を感じたのか、頭上から降ってくる声。背後からすっぽりと抱きしめられるような形の此処は、とても居心地が良い。 拗ねたような様子に思わずゆるりと口角が上がる。よもや余所事を考えていたとでも勘違いしたのだろうか。 「あたたかい、ですね」 「…うん」 とす、と頭に乗ったのはきっと顎。普段よりも明らかに口数の少ない三井さんが、何か伝えようとしているのは分かる。 話がある、そう言われたきりで。催促するのもどうかと悩むこちらの身にもなってほしい。 「仕事」 「はい?」 つらつらと考えを並べていた矢先、何の前触れも無く落とされた短い単語。胴に回った腕を撫でて相槌を返す。 「辞めることにした」 理解するのにたっぷり十秒は要したか。唐突すぎるその報告に、がばりと体を起こして。振り返った先の、うつむく彼。 下を向いたその表情は分からない。色々な憶測が高速で脳内を駆け巡る。 「…この仕事は普通じゃないし、初めたきっかけはただなんとなくだったけど。続けるうちにそれなりのプライドっていうのも持つようになった」 絡まった視線がゆらり、揺れる。 それほどまでに―――彼は。 「……何か、あったんですか」 問うた俺に首を振って、今度は正面から抱き寄せる両腕。ふわりと鼻腔をくすぐる香りに目を細め。 「惜しまれるうちが華かな、って」 黙って首筋に顔をうずめた。 きっと、それだけでは無いはずなのに。

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