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303.
翌日。仕事の話は断ろうと決めて、呼ばれるままに三井さんの家を訪れた。緊張で乾く喉を感じながらソファーへ腰掛ける。
「ちょっと待ってて」
寝室へ消える彼が戻ってきた時、手にしていたのは紙袋。訳が分からず首を傾げる。
「ほら、もうすぐハロウィンだからって貰ったんだ。楓くんに着てほしいなぁ」
「え……あの、」
綺麗な笑顔。有無を言わさず寝室へ放り込まれ、ただただ困惑する。着てほしいと言うからには衣服なのだろう。
「……ちょ、これ…!」
紙袋を覗き込んで唖然とした。
白いカッターシャツ、ベージュのセーター。ここまでは良い。サテンの赤いリボンと、ピンク地に白と赤のチェックが入った―――スカート。ご丁寧に紺色のハイソックスまで未開封品が添えてある。
「女子の、制…服……」
数年前までは馴染みのあったもの。ただし着る側ではない。
極めつけはセミロングの黒髪ウィッグ。今でも少し長めの髪だとは思うが、それよりもずっと長く、女性らしい見た目になることは容易に想像できた。
「着ろ、と…?」
呟いて嘆息する。彼がこういった趣味を持っていたことに対して何も思わないはずが無く。自分に気を遣って隠していたのだろうか。
このまま怒って帰ろうかとも一瞬考えて。けれどあの表情に弱い己を恨みながら、恐る恐る袖を通すのだった。
「…み、三井さん……」
思ったより丈の短いスカート。裾を引っ張るようにしながら顔だけ覗かせる。
「あ、着れた?」
心なしかわくわくした様子でこちらへ近付いて来た彼は。扉を開け、そのまま動きを止めてしまった。
普通に考えて似合うはずがない。本物の、それもとびきり綺麗な女性ばかりを相手にしているのだから。
元々体毛も薄く、見るに耐えずという様子ではないにしろ、普段は隠れた太股を撫でる空気が寒い。
「…満足しましたか?もう脱いで、……っ」
ため息と共にリボンへ掛けた手のひらが掴まれるや否や、次に感じたのはシーツの柔らかさ。一瞬の出来事にただ目を瞬かせることしか出来なかった。
押し倒されたのだ、と気づくまでに10秒は要したところで。ばさりと広がった髪のひと房を掬い上げた彼が、笑う。
「可愛い」
唇まで運ばれた黒い長髪を呆然と眺める。じわりと浸透したその賛辞はただの毒だった。
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