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「脱ぎたいなら俺がしてあげる」 ふ、と口元を緩めた三井さん。少しの加虐を含んだその表情は、悔しいけれど見惚れてしまうようなもので。 (ああ、そうか…) こんな感じなのかもしれない。彼が組み敷いた女性の視界は。 結論付けてしまえば、どうしようもなく痛む心臓。 「………やっぱり女性が良いんですね」 ぽつりと呟いて、目を閉じる。聞こえるのは小さく息を呑む音。 恐らく本心を言い当てられたことに驚いているのだろう。カッターシャツのボタンを外す手も、固まった。 「…参ったな」 静かに落ちてきた言葉はそれを裏付けるもの。じわりと涙が滲んで、目尻を伝う。抱き起こされて収まる腕の中は変わらずあたたかい。 「可愛いと思ったのは本当。でも、言えないでしょう?」 困った様子で目元を拭う指を押し返して、逃れようとする。今更何を弁解するというのか。 「そのままの楓くんのほうが良い、なんて」 もがく動きを止めた。そろりと目を開ければバツの悪そうな顔。 「着て欲しいって言ったのは俺だし…楓くんの頑張りを無下にしたくなかったから。傷付けないように、元の君に戻すにはどうしたら良いかなって考えたんだけど」 ごめんね、と。再び抱き寄せられて、それでもまだ信じられなかった。 「…そんなこと、言って……誤魔化したいだけ、じゃないんですか」 疑るような言葉に吹き出した彼は、掴んだ俺の手を自らの下半身へと導く。この流れだと既に熱を持った塊に触れるのが、いつものことだった。 けれど。 「え……」 「ね?俺にしては珍しいと思わない?」 珍しいどころか前代未聞だ。こんなにも静かだなんて。驚愕に彩られた表情を見ながら眉を下げた三井さん。 「女装も可愛いけど…俺は素の君が好きだよ。前にも言ったよね、中身があってこその美しさに惹かれたって」 そう告げてこちらに触れる彼の方が美しいと、常々思っているけれど。言いたいのはきっと外見どうこうの話ではない。 「男だから、とか女だから、じゃなくて。楓くんだから好きになったんだよ。……何回言わせる気?」 少しの苛立ちを含んだ指が頬を抓る。甘やかな痛みを与えた後、上へと滑ったそれはウィッグを落として。 「……ずるい」 俯いた俺の頭をかき混ぜるように、柔らかな手のひらが動く。手ぐしで戻された髪を見て満足そうに頷いた三井さん。 「狡い大人は嫌い?」 確信犯めいた笑みを象る唇に近付いて、睫毛も数えられそうな近さで止まった。 「…大好き」 距離をゼロにしたのは、果たしてどちらか。

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