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305.
あれからたっぷり愛されて、日も暮れた。
可愛い、綺麗だと散々囁かれた俺の心臓もやっと落ち着き始めて。腕枕の先、こちらを見つめる三井さんを眺める余裕が出来た。
彼は俺を綺麗だと言うけど、こちらからすれば三井さんの方がよっぽど綺麗だ。それは外面的にも、内面的にも。
あれだけの環境に身を置きながら気高く汚れることなく、数多くの寵愛を一身に受けながら、どこにも堕ちなかった。
そんな彼からの睦言を送られるのが自分だけだという今の状況に、歓喜で震える身体。
労るようにゆっくり撫でられて、そろりと睡魔が忍び寄る足音を聞いた。このまま寝てしまうのが勿体ないと抗う俺の耳に届いた小さな声。
「この前、挨拶に行った時に…ああもうそんなに経つのか、って思ったよ」
答えを必要としていないその響きを聞きながら、胸元に擦り寄った。
「付き合って長いけど、日を重ねるごとに溺れる自分が怖い」
ぱちりと目を開ける。彼がこんなことを考えていたとは。黙ったまま頬を撫でれば、目元が緩んだ。
「楓くんは、色んな顔を見せてくれるね」
額に降ってくる柔い感触。再び睡魔に襲われそうになった、その時。
「…飽きるなんて考えられないなあ、」
心臓が止まったような気がした。
飽きられてしまわないように、と考えたのはつい先日。もしかして、この人は―――…
思わずその双眸を凝視すれば、うん?と優しく細められた琥珀色。
とても幸せな"今"を感じた瞬間、目頭が熱くなる。
「……飽きない、ですか」
顔を胸元に押し付けながらぼそぼそと問う。つむじをくすぐる指が背中へ踊った。
「飽きないねえ」
ふ、と笑みを含んだ返答に頷く。ここへ来た時とは真逆の考えを抱く自分も現金な奴だと思う。が、
「……仕事」
彼なら。三井さんなら。どれだけ傍に居ても裏切られないだろうか。受け入れてくれるだろうか。
「俺で、良かったら…拾ってもらいたいです」
埋めていた顔を上げる。たまには、素直になってみたい。視線を送れば、瞬く彼が眉を下げた。
「どうしてそんなに卑屈なのかな…全くもう、」
悲しそうに言われたところで何も出来ないことが少し寂しい。謝ろうと口を開いた瞬間。
「…分かった。自信が持てるように、嫌というほど愛してあげる」
だから、おいで。
と。
甘く微笑んだ彼に着いて行くことを決めた。
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