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306.
それからはあっという間だった。
「…ど、同棲!?」
目を剥く楓くんに首を傾げる。さすがに急ぎすぎたかと諦めかけたが、やはりここは引けない。
「職場の近くに引っ越そうかと思ってて。一緒に住むのは嫌?」
「えっ、嫌とかじゃ…なくて……」
「開店まで研修もあるし、楓くんもその方が楽でしょ?」
ううん、と唸る姿。もう一押しだと畳み掛ける。
「毎朝俺のために味噌汁作ってよ」
「……もう、」
分かりました、と顔を背ける彼の赤い耳。そっと撫でて、笑った。
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