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307.
引越しを終えた11月中旬。
「こ、骨折…!?」
「利き手じゃなくて助かったよ」
目の前で笑うのは細田。話の流れで久しぶりに会うことになったは良いものの、しばらくぶりの友人は痛々しい三角巾で腕を釣っていた。
「まあ1ヵ月もあれば治るだろうってさ」
「何か手伝うことがあったら言ってくれ」
ありがとう、と笑う彼は首を傾げた。
「…それで、同棲始めたんだって?」
「どっ……うん…」
まだその響きに慣れない。というよりも、この先ずっと慣れることはないと思う。
「どんな感じ?」
「えーと…ほとんどずっと一緒に居るのが不思議」
ふうん、と頷いた彼の背後に視線を投げる。ぼんやりと考えを巡らせながら紅茶を飲んだ。
「あとは…そうだなあ…朝起きて、隣に―――」
無意識にそこまで口にしたところで、はっと我に返る。恐る恐る顔を見遣れば案の定にやけた細田が。
「ダブルベッド?」
「うっ……」
一緒に寝ていることがバレた上に、サイズが違うとは言いづらい。それでも追求から逃れるためには仕方ないと諦めて。
「……キング」
「えっ?」
「キング……サイズ…」
「…ほう」
ああ、消えて無くなりたい。頭を抱える俺を他所に、参考になったと残して、彼は去って行った。
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