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309.

「お疲れさん、まあ取りあえず入れよ」 ドアを開けてくれたハルさんに頭を下げて、キャリーケースを転がした。奥から出てきた細田に驚いたところで、彼も気まずそうに頬を掻く。 「あー…今、ウチ誰も居なくて。治りかけなのを良いことにみんな旅行だと」 三角巾は取れたが包帯付きの腕をぷらぷらとさせる彼に頷いて、靴を脱ぐ。この2人が付き合っているのは知っている。ということは、 「も…もしかして、とてもお邪魔だったんじゃ……」 恐る恐る顔を窺えば、からりと笑ったハルさんが背中を叩く。 「大丈夫だって、気にすんな。充分楽しんだから」 「は、はあ…?」 苦笑いを浮かべる細田が、入れ替わりにキャリーケースを持った。 「じゃあ俺は戻ります。そろそろ家掃除しとかないと、帰ってきた時に煩そうなんで」 「ごめん……」 明らかに邪魔をしてしまった、と頭を下げる俺に首を振った細田は更に言い募る。 「俺と一緒に居た、って後でルイさんにバレたら心配されるだろ」 「…はは。もうそんなことも無いと思うけど」 自分はいつお役御免になってもおかしくない。はっきりと目の当たりにした現実に打ちのめされてからまだ数時間だ。 どうしようもなく切なさを感じて、思わず胸を押さえる。 その様子に紫黒(しこく)を細めた彼は、頭をひと撫でしてから出ていった。

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