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ところ変わって、リビング。 対面するソファーの隅に腰掛けた三井さんはぼんやりと宙を見つめて。 「……かなり心配したんだけどなあ」 「すみません…。でも、メモは残しましたよ?」 事故や犯罪に巻き込まれていないと証明するために。首を傾げる俺をじとりと見遣って、彼は膝を抱えた。 「いい歳したおじさんがこんなに振り回されて」 「おじさんじゃありません」 「ハルに電話しても居ないなんて嘘つかれて」 「そ、れは…俺のせいじゃ……!何も言ってないですもん」 「大事な指輪。色々準備もしてたのに、まさか玄関で渡すことになるなんて」 「うっ…」 「ホスト時代のお客さんを全部切るのに苦労して」 「……はい」 知っている。三井さんは皆に望まれる人だ。どれだけ大変だったか、それはもう嫌というほど。 「メールもエラーで帰ってきて」 「あ…!」 そうだ。受信拒否設定を解除していないのだから、返事も来ないに決まっている。それなのに勝手に落ち込んでいたとは。 項垂れる此方にトドメのひとこと。 「俺、そんなに信用ないかなあ………」 恐らく、一番言いたかった事で。それきり黙り込んでしまう三井さん。 先の件は完全に自分が悪い。 「あの……本当に、すみませんでした…。良く、確認もせずに…でも、怖くて。もし予想が当たっていたらどうしようと思ったら、逃げることしか…思いつかなかったんです」 抱える膝に埋まった顔は動かない。ひたすら謝るも、今回ばかりはなかなかにショックだったようだ。 「三井さん…」 途方に暮れて唇を噛む。離れる距離が、遠い。せっかく誤解を解いて分かり合えたのに、これではまるで――― (…寂しい、) じわりと滲む涙を、甲で拭って深呼吸する。 泣き始めにどうしても震えてしまう喉を押さえた。 小さく響く嗚咽に気づいた彼が顔を上げて。物言いたげな双眸を受け、本当に、ごく自然にほろりと口から零れ出た言葉。 「ひ、かる…さん……」 見開かれる琥珀色。ややあって糖蜜のように溶けたそれは、彼が根負けしたことを指していた。 テーブルを越え隣へ移動してくると、温かい指で目元を拭われ。 「どんな些細な事でも良い。ちゃんと答えるから、不安になったら絶対に聞いて」 優しく降ってくる口付けを至るところに受けながら、必死で頷く。 俺を抱き上げた彼の向かう先が、二人の寝室だと分かっても尚。その首筋に縋り付いたまま離れたくなかった。

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