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あっという間に大晦日。年越し蕎麦を食べ、こたつでお茶を啜る。 ちなみに我が家では年末恒例のチャンネル争い、晄さんとも勃発するのかと思いきや――― 「ああ、楓くんが見たいもので良いよ」 ホスト時代は大晦日もカウントダウンイベントで駆り出されていた彼。特にこだわる番組もなかったらしく、あっさりと譲ってくれた。 「その代わり、席はここね」 示したのは胡座の上。絶句する俺を引きずって座らせた彼はなんともご機嫌だ。 「みかん、食べます?」 「ん」 振り返れば、ぱかりと口を開けて餌を待つ雛のような姿の晄さん。笑いながら一粒入れて再びテレビに向き直る。 「あと10秒ですって」 「早いねえ」 『5...4...3...』 秒読みを始める画面に釘付けだった俺の顎にするりと伸びる指。驚いて背後を仰げばゆっくり降ってくる口付けと、優しい微笑み。そして。 「明けましておめでとう」 「……おめでとう、ございます…」 テレビでは新年を告げるリポーターの声が響いていた。赤く染まった頬を隠すべく俯いて、小声で悪態をつく。 「ほんと、もう……ばか」 「…悪い口だね」 ふ、と息を零した晄さんが俺の顔を上向かせて。出会った頃より伸びた髪のせいで翳る相貌。垂れた横髪を掬いあげると僅かに見開かれる瞳、その奥に揺れるものを認めて思わず彼を引き寄せた。 薄く柔い唇を食んで、舌を這わせる。少し痛む首に眉を潜めれば、離れる体躯。 向かい合う体勢に直され、見つめ合うこと数秒。それから。 「…そんな顔しないで」 困った様子で笑う晄さんが。唇をなぞって眉を下げる。自分は今、どんな表情をしていたと言うのだろう。疑問が通じたのか、ぎゅうと抱きしめられて。 「すごく…欲しいって、顔……してる」 小さな呟きの意味を理解した途端、ぼんっと音がしそうな程に熱くなる顔。それでも否定出来ないのだから、相当この人に骨抜きだと思い知っただけだ。今度は隠すことも出来ず、ただ涙が溜まっていく中で瞬かないよう必死で見つめる。 「ほら、今日は初詣に行くんでしょう?」 撫でる手と声音は、さながら幼子をあやすようで。不満が知らずの内に表れていたらしい、尖った唇を宥める指先。 「……姫始めは2日だよ」 耳朶に吹き込まれた笑み混じりの吐息。自分ばかり求めている訳でもないのだと分かって、安堵の思いで頷いた。 「もう寝ます」 首裏に腕を回して呟く。横抱きにされた状況が恥ずかしい、と。ふわふわした頭に浮かぶのはただひとつだった。

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