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初詣。隣の晄さんは着込みすぎて雪だるま状態だ。 「……寒い」 「す、すみません…」 行きたいと言い始めたのは自分なだけに、やはり罪悪感を覚えてしまう。自然としょげる横で、ふと立ち止まる晄さん。 「どうしたんですか?」 振り返ると、革の手袋を眺めている。そして、取り払ったのは左手の手袋。素肌を晒す手が差し出され、疑問符を浮かべるしかない俺に。 「…あっためて」 マフラーに半分埋もれた口元が、僅かに弧を描いている。寒い中の初詣に引っ張り出してしまったこと、俺が気に病んでいること。全て分かった上で、気にするなと言ってくれているような気がした。 子供のようで、その(じつ)、彼はとても大人だ。 おずおずと重ねた手のひら。すぐに恋人繋ぎへと形を変えたそれをくすぐったく思えば、絡めた指に力が籠る。 相変わらず外気は冷たいけれど、温かい右手を意識しながら歩く道は悪くない。 そこそこに混んでいた神社の境内。 恙無くお参りを済ませ、帰途につく。 「晄さんは何をお願いしたんですか?」 隣の長身を見上げる。僅かに傾けられた顔。その横をさらりと滑ったグレージュの髪が、柔らかな冬の陽を受けて光った。 「"お願い"はしてないよ」 細められた瞳の奥に湛えるのは底抜けの優しさ。垣間見えた愛に、それだけでもう心臓がうるさく音を立てる。 「幸せは自分で叶えるものだから。…ね?」 手を繋いでいるのは往路と同じはずなのに、気恥ずかしさは先の比ではない。マフラーに吐息を逃がして俯く。 「帰ろうか」 ぽん、と頭を撫でられた。 本当は初詣の後にどこか寄ろうかと話していたけれど。今はそれよりも、早く帰って2人きりになりたい。 同意見だったのか、真っ直ぐ家への道を歩き始めた晄さん。 着いたら思い切り甘やかしてもらおうと口元を緩めて後を追った。

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