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「いらっしゃいませ」
オープンから数日。口コミの成果もあり、決して広いとは言えない店内も、常に満席状態だ。店長としては嬉しい現状である。
カラン、とベルの鳴る音に入口を窺えば懐かしく感じる顔ぶれが。
「よ。来てやったぞー」
「こんにちは」
手を上げるハルに、会釈する細田くん。並んだ姿もしっくりくる程には仲が深まったように見えて、思わず破顔した。
「2人とも元気そうで何より」
「まあな。店の方も調子良さそうって感じか」
席へ案内しながら頷き、オーダーを取る。ピロンと厨房へ伝票が送られ、その音と共に足を運んだ。
「楓くん」
「あれ、どうかしました?」
伝票を機械から受け取りながら彼が首を傾げる。それもそのはず、普段はオーダーを通した後にわざわざ訪れたりしない。
「ハルと細田くん、来てくれたよ」
「えっ、本当ですか!?」
後で挨拶に行きますね、と微笑む楓くんの頭を撫でてホールに戻った。
途中ドリンクカウンターに寄ってコーヒーを受け取り、ハル達のテーブルへ運ぶ。
「お待たせしました」
「お、ありがとうございます」
気づいた細田くんがソーサーを受け取ってくれ、そのスマートな仕草に年下ながら内心舌を巻く。
「あ、そうだ。知り合いの雑誌編集者がさ、特集になりそうな良い感じのネタ知らないかって」
カフェオレを混ぜながらこちらを見上げるハルが笑った。まだまだ知名度の低い店側としては願ってもない提案だ。詳しいことは後で、と話す彼から取りあえず名刺だけを受け取って、業務に戻った。
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