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「…で、これがその方の名刺ですか?」
「うん。そこそこ売れてる雑誌だし、損はないかなって」
損どころか得しかない話だ。隣で名刺を眺める楓くんを見やる。
あれから閉店作業を終えて、店内に残ったのは俺と楓くん、それにハルと細田くん。
渡された名刺に記載されている社名は俺も知っている有名なもので。ティーンの女性からOLまでの層に圧倒的な人気を得ている。
「超絶イケメンが店長を務めるカフェ、興味ないかって写真見せたら速攻で食いついてきたよ」
「……なるほど」
呆れ混じりに笑うハルに頷いた楓くんが、手元の名刺に視線を落とす。
「取りあえず先方と話をして、問題が無さそうならお受けしようと思うんだけど………楓くん?」
「――えっ、あ…はい、良いんじゃないでしょう、か」
ぼーっとしてました、と謝る彼に少しの違和感。俺が口を開くより早く、ハルが間に入った。
「多分だけど…紙面のサイズ的にインタビューは店長1人になると思うから、緊張しなくても大事だぞ~」
笑いかける彼に「良かったです」と返す楓くんの様子はいつも通りに戻っていて。さっきのアレは自分の見間違いだったのかと首を傾げる。
ふと斜め前の細田くんに目をやれば、物言いたげな目で楓くんを見ていた。深く掘り下げたい気持ちはあったものの、今ここで問いただす訳にもいかず。
ビジネスの話として、打ち合わせの日取りをハルと相談するだけで終わった。
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