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「楓くん」 「あ…どうしました?」 キッチンの片隅。自分のペットボトルから水を飲む楓くんの背後に近寄る。 俺を見るなり僅かに泳いだ視線が切なく胸を締め付けた。 「…大丈夫?」 けれど、何と声をかけるのが正解かも分からず。出てきたのはありきたりな質問で。 指先に触れる頬は相変わらず滑らかだった。 「元気ですよ、俺は」 東さんにも心配されたんですけど…と苦笑いをこぼす彼の左手を掬いあげる。そのまま薬指に顔を寄せた。 「…ひ、かるさ……」 「――楓くんだけだよ」 唇に伝わる金属の感触。自身の同じ箇所にも光る輝きを目に収めて、彼の瞳を覗き込んだ。 はっとしたように張り詰めていた表情が、ふと崩れる。 「…よそ見、しないで」 泣きそうに歪められた顔。震える声。全てが堪らなく可愛いと思う。そんな心配の必要がないことを仔細に説明するには、時間が足りず。だから。 「安心して」 ありったけの愛を込めた、口付けを。伝わるようにと。 「帰ったら、ちゃんと話そうか」 確かめるように約束を取り付ければ、はい、と小さな声で応えてくれる。再びこちらに向けられた瞳を見て、もう平気だと安心した。 「残りも頑張ろう、副店長」 隣に並ぶことを選んでくれた楓くん。大事にその肩書きを呼べば、返ってきたのは俺の一番好きな笑顔だった。

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