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自己紹介

「はじめまして、まずは自己紹介からお願いしてもいいかな? 下の名前だけでいいよ」 「テツヤ、です……」 「それじゃ、テツヤさんって呼ばせてもらいますね? 歳はいくつ?」 「26」 「うんうん。やっぱりイケメンって若く見えるね。なのに大人っぽくてかっこいいなんて、すごい魅力的」 「……そうっすか」 「なんでこの話、受けようと思ったの? 男相手って嫌じゃない?」 「……それは、その」 「やっぱ、ギャラ? 俺、今回いつもより奮発して頑張っちゃったからね」 「それもある……けど、男もいけるか、試してみようと思って」 「うん? 詳しく聞きたいな、その話」  特殊なシチュエーションだからか、テツヤさんは俺が声をかけた時とはうって変わって、まるで借りてきたネコ状態だ。  あながち間違っちゃいないかも知れないけど。  こちらから目を逸らし、そしてたまにチラリと一瞥する気恥ずかしそうな顔が可愛い。俺より年上なのに。  なんて思いながら真摯に彼の話を聞けば、どうやらテツヤさんはほんとにノンケだということが判明した。  ことの発端は、一般的な風俗店で前立腺マッサージの存在を教えてもらったことにあるそうだ。  風俗嬢にしてもらう勇気もなく興味本意で手を出して、その何とも言えぬ気持ちよさに嵌まってしまって、夜な夜なひとりでアナニーまでするようになって。  そしたら男のブツを突っ込んだらどうなるんだろうと考えたものの、ゲイバーやハッテン場に行く度胸まではなくて──、みたいな感じで、どうにも行動へ移すことが出来ず、結局、後ろは処女のまま現状維持。  周りにゲイもいない、容易に人にも話せない。  そんな時、俺に声をかけられた、らしかった。 「それって、恋愛対象は女性だけど、興味があるのは男性の身体ってこと?」 「……多分、そうかも」 「ゲイビは? 観て抜いたことある?」  こくん、と声もなく頷く26歳。  何この人、見た目イカツイのに可愛いんですけど。 「テツヤさんはネコ希望なのかな?」 「べ、べつに、希望とかじゃ……っ」 「はは、ごめんね。じゃあ話題を戻そうか。初めてゲイビ観て、どうだった? 嫌悪感はなかった?」 「……タチもネコも綺麗な感じのやつだったから、そんなには」 「抜く時は、お尻の穴も使ったりした?」 「……っ、あぁ」 「へぇ、そっか。お尻、感じるの?」 「……嫌、だ、この質問」 「大丈夫、恥ずかしくないよ。聞かせてほしいな、テツヤさんのこと」 ──あぁ、可哀想に。テツヤさん、顔、真っ赤だ。  久しぶりにこんなナチュラルに照れ屋の人に会ったなあ。  もっと竹を割ったような性格してると思ってたけど、嬉しい誤算だ。  にこにこと彼の返答を待っていると、おそるおそる口を開いてくれる。  俺は『外見は人畜無害』らしいから、こういう時だけは便利だ。 「かん、じる」 「いつもは指でするの? それともディルドとか、アナルスティックとか?」 「ゆび……」 「何本入る?」 「に、二本くらい」 「それで、ローションでぬるぬるにさせて、ぐちゅぐちゅかき混ぜるんだ?」 「っ、」 「図星? いやらしいね、その現場見てみたくなる」 「……」 「じゃあ、恥ずかしい質問はここで一旦終わりね。アナル、疼いちゃった? 大丈夫?」 「あぁ、大丈夫……」  いきなり誘導尋問は可哀想だったか。  心を開かせる前に閉ざしちゃった……わけでもないか。  そもそもここにいる時点で、えろいことするって前提だし。  子どもじゃないんだから、その辺は本人も了解しているだろう。  口数が少なくて目を逸らすのは、きっと単純に羞恥心からで、あとはどこまでなら距離を縮めさせてくれるか、なんだけど。  俺、今までスカウトしたどの男よりも、一番大事に扱ってるかも知れないな、これは。 「俺ずっと気になってたんだけど、テツヤさんって絶対イイ身体してるでしょ?」 「へ? いや、普通だと思うけど」 「えー、ほんと? ちょっとだけ腹筋見たいなあ……。だめ?」 「……少しなら、」  意外と流されやすい、のかな、この人。 ……あらら、知らないよ?  俺、まだまだ短いスカウトマン歴だけど、男をホテルに連れ込んで何も出来なかった──しなかった、なんてこと、一度たりともないからね?  むしろ色々オイシイ思いをさせてもらってます。  これぞ天職、だと思う。今のところは。

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