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撮影

────……  某月某日。  都内の某所にて、心をわし掴まれたメンズを某ホテルまでおびき寄せることに成功しました。  終始胡散くさそうな顔はされたけど、別に気にしないよ。  相手がノンケだろうがゲイだろうが、ついて来てくれただけでも幸運の最高位に値する。  こんなチャンスは二度とないと、あの時に思ったのだ。  手が震えそうになるくらい、切羽詰まりながら必死で声をかけて、まるで不審者を見るような目を向けられながらも、俺の最大限の語彙力とコミュニケーション能力を駆使して、丸めこめて説得した。  元から男に興味はあったのか、それとも俺の贔屓目で上乗せした高額なギャラ目当てか。  相場よりもかなり割増してるからね。  金欠なら『オナニーするだけで一時間数万円』は、なかなか高条件のアルバイトだと思う。  まああとで聞けば分かることだから、少しずつ慎重に、焦っちゃだめだ。  わりと簡単に口車に乗ってくれたくせに、ガチガチに緊張している彼がリラックス出来るよう、まずはカメラ君と俺の存在に慣れてもらわないといけない。 「……大丈夫? 緊張してるみたいだけど」 「……あ、あぁ。なんか、ホンモノっぽいな、こういうの」 「あは、ホンモノだよ。このカメラで貴方を撮って、編集して、ゲイビって知ってるでしょ? 今回は『ノンケにインタビュー&公開オナニー』って企画だから、それの一部になる」 「……そ、そうか」 「さっきも言ったと思うけど、ギャラは後払いね。あと、俺が軽く何個か質問するから、普通の友達みたいに喋ってくれて構わないよ。最後はアダルトビデオ観ながらオナニーしてもらうけど、基本は楽にしてて大丈夫だから」 「お、おう……」 「ふは、後悔してる?」 「……少し」  はは、これが本音だろうな。素直な人は嫌いじゃないけど。  手持ち無沙汰に頭を指先で掻くドカタ風のお兄さん。  白いタオルからはみ出た髪は、黒くて短い。  社名の刺繍があるツナギは上だけ脱いでもらって、袖を腰のあたりでゆるく縛ってある。  なかに着ていた身体にフィットする黒のTシャツが、彼の男らしい精悍さに磨きをかけていた。  きっと腹筋とかもちゃんと割れてるんだろうなあ。早く触りたい。  しっかり筋肉ついてるのにガチムチではなくて、どこか繊細そうなイメージを受ける肉付きをしている。  肩が華奢なのかなあ。  あ、腰も結構細いかも。  手、指が長くて骨っぽくて、しゃぶりたいくらい綺麗だ。 「……それじゃあ、カメラ回して。あ、最初は気になるかも知れないけど、この子のことはなるべく視界に入れないで。意識すると緊張しちゃうから」 「わ、分かった」 「いい返事。じゃあ、始めますね」 「カメラ回しまーす」  彼をベッドに座らせ、俺はその斜め向かいに椅子を持ってきて、腰かける。  隣に座らないのは、ある一定の距離を保つためだ。  誰しも警戒心がある時は、自分のパーソナルスペースには入ってほしくないものだし。  斜め向かいなのは心理作戦でもあるけれど、単にこのほうが撮りやすいからね。  カメラを意識しすぎてはいけないけれど、意識しなさすぎるのもだめ。  背が高い大きな身体を縮めるように、ベッドに座った彼は開いた膝の間で手を組んでいる。  これも不信感の顕れだけど、まあ、今はいいや。  静寂に包まれる室内。  カメラ君が息を潜めて見守るなか、撮影は始まった。

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