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嫌がってもいいよ

「っいや、だ! はなせ、まじで! おいっ、ン……!」 「なんでだめなの? 少しくらい普通でしょ? 男同士なんだし」 「あんたがそれを言うな……っ、ちょ、ほんと、だめだって……!」  股間を揉み込む指を掴まれ、離されては、その手を退かしてまた触る。  腰をよじって嫌がる彼と、どうしてもある程度の撮れ高はほしい俺。  こうして素で拒絶される機会もあまりないから、狼狽しながら嫌そうに歪む顔は新鮮で、可愛らしい反抗は加虐心を逆なでした。  勢い余って俺まで椅子から立ちあがる。  テツヤさんを背後から抱きしめるように腕をまわして、まだ柔らかいそれをカタチが分かるようムニムニと触り、扱いて。  特等席でしゃがみこんでいるカメラ君が、ここぞとばかりに映像を記録していく。  目の前で自分の痴態を撮られることが恥ずかしいのか、彼はほんとにずっと抗ってくるし。  本気ではないんだろうけど、それでもなかなかの力加減で悪足掻きするから。  だから、こっちも呆れちゃって。 「やめっ、ちょ、いやだっ、触り、すぎだって……!」 「じゃあ他に何が出来んの?」 ──自分から着いてきたくせに。  さすがに言わないけど、暗に口に出しているのと変わらないくらいの台詞を、いたって平常心で言い放った。  まさか本当に絡みナシで済むと思ってた?  ゲイのDVDに完全素人のノンケが出演すること自体、虎の檻に生肉を放り込むようなもんでしょ。  普段から余分なエサがない分、食べられるときに食べるし、美味しそうな獲物は絶対に逃がさない。  カメラに映らないよう、小さく溜め息をつく。  別に怒ってるわけじゃないんだけど、テツヤさんは俺の態度にびくりと身体を硬直させた。 ……ああもう、この部分、絶対編集でカットになるわ。  適度な反抗心はいいスパイスになるけれど、あんまり拒絶されると逆に萎えるし、そもそも作品として使えない。  でもこれくらいのことで諦めるつもりもない俺は、ひとしきり攻防戦を続けたあと。  少々ばかり名残惜しくも股間から手を離すと、固まってしまったテツヤさんを救済するみたいに、今度はまた別の提案を囁くことにした。  結構優しいよ、俺。お気に入りの子には。  もっとじわじわ追い詰めて、やんわり問い詰めて、ひんひん泣かせたくなる。  完全に矛盾したことを考えた己に、内心で自嘲する。  表面には、一切出さない。 「それなら、お尻は? ズボンおろして、下着の上から撮らせてほしいな」 「っ嫌だと言ったら……?」 「言わないでしょ?」 「……」  場面は適度に切り替わるほうがいい。  体勢とか表情とか、カメラの映像に動きがなければ、すぐに飽きられてしまう。  魅せるところはねっとりと時間をかけて、リアルな反応を、ネコの子の色んな姿を撮りたい。  テツヤさんは何か言いたそうな目をしていたけど、視線を伏せて何度か瞬きすると、諦めたようにぐっと口を噤んだ。

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