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カメラ君3
でも、だからって落胆するはずもないけど。
据え膳食わぬは何とやら、ですよね。いつも有り難くいただいています。
俺は別にそれでも全然いいけどさ、テツヤさんもそうなのかなあ、と思うと、拍子抜けくらいはしそう。
ノンケやバイは今までも相手したことあるから、今さらではあるんだけど。
男は性欲に忠実だから。
心と身体は密接していても、全くの別物だと、我ながら思う。
「知ってますよ、いつも側で見てるし」
「ほんと無表情だよね、君。勃起くらいはしてるよ、普通の人は」
「俺たぶん普通じゃないんで。だから、近くで見てるぶん分かるんですよね。今日は乱暴だなあ、とか、優しいなあ、とか。多重人格なのかと思います。たまに」
「それって俺のこと? 俺はただ、相手の欲しい台詞を囁いて、してほしそうなことをしてあげてるだけだよ」
「……そんな台詞、あなたがイケメンじゃなかったらイタイだけですね」
「はは、君にとって俺ってイケメンなの? ありがと」
君もなかなかイケてるメンズだよ。少々ばかり癖のある青年ではあるけれど。
なんて思いつつ、浴室から聞こえてくるシャワーの水音を耳に入れながら、がさがさと大人のオモチャ箱を漁りながら答えれば、後ろで小さな溜め息が聞こえた。
「……ポジティブ」
「なんか言った?」
「いえ。DVDのセットはしときましたんで、あとはあなた次第かと」
「だいじょーぶ。俺これでもプロだから。いつでも勃つよ」
「万年発情期ですもんね」
「えー。そこはもっとプラスに評価してよ」
少しは仕事熱心ないい社員だとでも言ってほしいところだよね。
そんな社交辞令、もし思っていたとしても、この子が口に出すとは思えないけどさ。
「でも、さすがに勃たない時もあるんじゃないですか? こうも連日射精してたら、精根尽き果てませんか」
「残念ながら、尽き果てようが通用しないのが、この業界の恐いところだよね。俺らはザーメン製造機ですから」
「……あー、まあ、うーん」
「はは、勃たないタチはいらないよ。気軽にヤれるからって舐めてる子は多いけど」
「……」
「体調が悪いとか受けがタイプじゃないとか、そんなんじゃね。代わりはいくらでもいるんだから」
「……俺、絶対やだな、タチ役。プレッシャー凄そう」
「俺はそれすら楽しいけどねー。ザーメン製造機なんてむしろ褒め言葉だよ。慣れれば気持ちいいだけだし、一石二鳥」
にっこり笑って言ったところで、きゅ、と遠くからシャワーのコックをひねる音が聞こえてきた。
テーブルに畳んであったテツヤさん用のバスローブを片手に、俺は立ち上がってカメラ君に背を向ける。
「さてと、今日はどうやってイかせてあげようかなあ」
「……変態」
ノリノリで鼻唄さえ奏でる俺に、ぽつりと発したカメラ君の呆れ返った呟きには、今は聞こえないふりをしといてあげた。
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