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事後
───……
「“好き”って言ってもいいんですね」
「……? なにが?」
「撮影中、あなたが言ってたから。わざと言わないようにしてるんだと思ってました。勘違いさせないために」
「そんなこと言ったっけ、俺」
「え、覚えてないんですか? 軽はずみなこと言うなんて、らしくないっすね」
んー?と気のない返事をしながら、テツヤさんの居なくなった部屋をカメラ君とともに片付けていく。
彼は機材全般、俺は使った玩具を洗って、綺麗に消毒までして、汚れたシーツをまとめる。
ホテルはホテルだけど、ここはラブホじゃない。
情事……はしてないけれど、そういった痕跡はなるべく消しておかないと。
いくらこのホテルのオーナーが理解のある人で撮影許可をもらってるといっても、そういうのはきっちりしてるに越したことはない。
協力してくれる人の機嫌はとっておくべき、だとでもいうか。
「番号くらい聞けば良かったのに」
「……」
「名刺渡しただけって……、案外あなたも慎重なんですね」
「今日はよく喋るね、君」
「……すみません」
「いや、怒ってるんじゃないよ」
薄いピンクベージュのカーテンを開ければ、太陽はまだかろうじて空にあるものの、日が傾いてきているのが分かる。
日没までもう少し。
普通なら皆、職務を全うして帰宅していく時間。
早い人はすでに晩飯時だろうに、俺は男と寝てその映像を売る仕事をしている。
なんて不健全なんだろう、と正常な周りを見るたび憂鬱な心境になったのは、一体いつ頃までだったっけ。
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