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相棒
何が反道徳的か、そうでないのか、この世界はおかしいことが多すぎて、麻痺してくる。
考えることはもう、とっくにやめた。
「言ったでしょ、引き際が肝心だって」
「……」
「連絡なかったら、それは縁もなかったってことで。それにしても、あんな人いるんだね。付き合ったやつしかヤらないってさ。思い出すだけで勃起しそう」
「……変態」
「知ってる。今回はさすがに君も勃ったんじゃない? いつも淡々と仕事してるけど」
「……俺は、人に興奮しないんで」
「あは、そっちこそ、変態」
「むしろまともな人いるんですか?」
「ははっ、そういえばいないね」
都会のビルしか見えない窓を背に、俺は振り向き、カメラ君に笑いかける。
夕方の時間は短い。
室内が、濃いオレンジ色から深い青に染まっていく。
「あと一時間、付き合ってくれる?」
「……え? まだやるんですか? 今回はこれで充分かと」
「それが世に出ることはないよ。永久にお蔵入り」
「……」
彼の持つ撮影媒体を顎で差して言ったその台詞に、暗がりのなかでカメラ君があからさまに顔をしかめた。
酷いなあ、その顔。
一応俺のが年上なのに、容赦ないね。
「……だから穴埋めしなきゃ。うちのシャチョーは恐いからね」
「……別にいいですけど、今からノンケ探そうなんて、一時間じゃ無理ですよ」
「ノンケっていう“設定”でなら、いくらでもアテはあるよ?」
「うっわ……」
顔出しオッケーな丁度いい子はたくさんいるよ。
そう言えば、ドン引きして深く溜め息をつかれたけれど、結局は俺の言うとおりに動いてくれる。
彼はとても空気の読める素晴らしい人材だと思う。
だってもう機材まとめて、次に行く準備は整えてあるんだ。
仕事が早くて助かる。
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