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キモチワルイ
若干イラつきながら彼のほうを見れば、目に入ったのは首筋に赤い情事の痕跡。
「……それが“野暮用”ですか」
「ん? あぁ……、つけないでねって、言ったんだけどね」
相手が夢中になっちゃったみたい、と全く悪びれる様子もない彼には、もう呆れて溜め息しか出なかった。
「君も知ってるでしょ、これつけた張本人」
「え? 知らないですけど」
「オーナーさんだよ、いつもの」
……あぁ、そういうことか。
いつもスカウトする時に使う某有名ホテルの、オーナー。
一店舗だけでなく同系列のところは顔パスで撮影許可がおりる。のは、彼が裏でこういったことをしているからだ。
普通のビジネスホテルやラブホは、カメラが入ることを伝えると断られるケースも多いから、一日に何度も利用する身としては重宝している。だが。
そのオーナーはドSの皮を被ったドMの売り専らしく、タチに股がり騎乗位で好き勝手痛みつけるのが、いつものお好みスタイル。
そして最終的に“タチが逆上して酷く犯される”という、一気に立場が逆転する下剋上のようなシチュエーションに興奮するとかで、彼はそんなクソなSMプレイ──、もとい茶番に嬉々として付き合っている。
オーナーは表向き『物腰が優雅で誠実な常識人』で通っているから、守秘義務をきちんと守る彼みたいな人間は、丁度よくて稀少なイイ相手なんだろう。
以前に彼らのプレイを間近で見たことがあるけど、あの時は内容がマニアックすぎて正直ぞっとした。
世の中色んな人がいるもんだ。
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